1. CAPELLI D' ARGENTO

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 城壁を通り街に入ると、かなり栄えた街だということが分かった。  道沿いには剛健な印象の建物が並び、人通りも多く広場に行く途中の道ですら露店が出され賑わっていた。  綺麗に並べられた石畳、広く幅の取られた道。  ダンテはようやく馬から降りた。  かなりホッとしながら手綱を引いて歩く。  まずどこに行こうかと周囲を見渡した。  思いつきで出て来たので、すぐには考え付かない。  広場か酒場あたりが、街の雰囲気を知るには一番手っ取り早いだろうか。  周囲の酒場らしき店を眺めた。 「あっ、あのっ」  幼く甲高い声がした。  左腕を掴み、身体を密着させて来た少女がいた。  質のいい濃い色のドレスを着ていた。  栗皮色の長い髪をハーフアップに結い上げ、ドレスと同色のリボンで飾っていた。 「いや、娼婦は間に合って……」 「助けてください!」  少女は焦った表情で見上げた。  娼婦などではない。  良家の令嬢という感じだ。 「失礼した」  ダンテは早口で言った。 「戻れ、こら!」  叫ぶ声がした。発音からして、かなり柄の悪い印象を持った。  厳つい男たちが数人ほど駆け寄り、少女に掴みかかろうとした。  少女は素早くかわすと、ダンテを盾にした。  突然に酒臭い息が顔に吹きかかり、ダンテは顔を(しか)めた。  背後の少女に向けて、男たちはしきりに絡むような言葉を喚いたが、呂律も回っていない。  酔っているのかと察した。 「何をした? 酒代でも騙し取ったか」 「失礼なことを仰らないでください」  少女は声を上げた。 「乱暴されそうになりました」 「と、言っているが」  ダンテは男たちを真っ直ぐに見て言った。 「声かけて来たから酌をさせようとしたら、ひっぱたきやがった!」 「道を聞いただけです!」  少女は言った。 「わたしは、ヴィオレッタ・スタイノ。スタイノ家の三女です。酌などさせられる謂われはありません!」 「うるせえ! お詫びに、ほら、ちっとやらせろ」  男のひとりがヴィオレッタの腕を掴もうと手を伸ばした。 「それは、平手打ちの対価としては割に合わな過ぎるだろう」  ダンテはそう言い、さすがに庇おうと間に入った。  すかさずヴィオレッタはダンテの右手を取ると、高々と上げた。 「しつこくするなら、この方が相手です!」 「待て」  ダンテは眉を寄せた。 「そこまではまだ承知していない」 「お見受けしたところ、あなたご身分のある方では」  そうだが、とダンテは答えた。 「護身用の武器くらい持っていらっしゃるでしょう?」 「そもそも君の付き人はどうした。良家の令嬢が、侍女も連れずに歩くのか」 「はぐれました」  ヴィオレッタは言った。 「では、この騒ぎで駆けつけるかもしれん」
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