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姉妹
若葉茂る桜の傍を通ると、誰か寝ていた。
私はそれをてっきり子供か何かと勘違いしてたが、それはお姉ちゃんだった
「おねーちゃん」
私が耳元でそう囁くと、お姉ちゃんはゆっくり目を開けて、背伸びをした。
背中には木の枝やら何やらが付いてる
とりあえずそれを私は落としてあげた
「ありがとう」
真顔で言ったお姉ちゃんに
「どういたしましてっ」
と、にっこりと返す
若葉茂る桜はざあっと風に揺れた。
まるで私達二人を撫でるみたい
「私とした事が……こんな所で寝落ちとは」
「だーいじょーぶ!珍しくないから!」
「でも………」
頬を染める、お姉ちゃんにとりあえず袋からドーナツを一つ渡す
「どうしたのこれ」
「あのね、そこの’’カンヅメ’ってパン屋さんあるでしょ!そこで買ったんだ!丁度100円セールだったから!」
ふうんと興味津々な顔でドーナツを一口、お姉ちゃんは齧った。どうでもいいが、綺麗な歯だ。健康的で、すごく女性らしい
「正直言っていいかしら」
「なーに」
「相変わらず、普通の味ね。カンヅメのドーナツ………」
「あはっ」
カンヅメのドーナツは昔から無難だった。すごく美味しくも無く、まずくも無い。
クリームがいっぱいでも、全くのプレーンでも無い。軽くお砂糖がかかったぐらいのドーナツ
「あはははっ」
「何笑ってるのよ」
「だってお姉ちゃん、食べてるの三つ目のドーナツなんだもん!」
「ぐっ……」
はむっとドーナツを齧って、また照れた。ドーナツ気付けば私ももう四つ目だ。不思議なドーナツ。何でか食べてしまう
「それにしても若葉も良いものね。何で誰も気付かないのかしらこの良さに」
「気付いてる人は居ても、わざわざ言わないと思うよ。私達が仲良しって事と同じくね」
まぁっ……と、表情で、私は額をぱちんと弾かれた。ちょっぴり痛いけど、久しぶりのデコピンは嬉しかった
この周りの空気だけ、深く沈み込んだ様だった。静かで優しくて、冷たくて
「ほんと……ばかみたいね」
「え……?」
「だってあなたも若葉を見て、気付いたんでしょ。私に」
図星だ。笑うしか無かった
「帰ろっか。海幸」
「うん!お姉ちゃん!」
こうしてまた、空間は変わり続ける。そこに
正しいも過ちも無いのだ。ただ、綺麗な限り
「ねえ」
「んー?」
「ドーナツいくつ残ってる?」
「んとね、みっつ」
「それじゃ、一つずつ食べましょう。一個はお母さんに残しといてね」
「えーそんなー」
「そんなあじゃないの。全く……半分あげるから」
「え?やった!ありがとう!そだ!お礼にドーナツ半分あげるね!」
「………意味ないじゃない」
私達二人は仲良しだ。それ以上もそれ以下でも無い。今はこの状態が一番いい。まるでそれは桜が新緑になった様な、そんな感じ。
「口が汚れてるから拭きなさい」
「うん!」
口を拭いてくれたお姉ちゃんは少しお母さんみたいだった。そんなお姉ちゃんを見て、私はちょっぴり大人になりたいな。と思ったりね
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