42人が本棚に入れています
本棚に追加
岡田俊行と稲葉白兎は精鋭塾に戻っていた。事務室には東野尚子が喪服のまま疲れ切った顔で座っていた。
「あら、刑事さん? こんな夜更けにどうなさったんですか?」
「いえ、気になることがありまして」
「そう言えば金庫の方、どうなりました?」
それを聞かれて岡田俊行は素直にありのままを話して良いものか迷った。数秒迷った結果、とりあえずは伏せておく事に決めた。自分の旦那が児童性愛者、それも男児相手なんて事実は明らかに重すぎた。
「あ、駄目でしたね…… 8桁のパスワードに数字とアルファベットが混じれば無茶ってもんですよ、パソコンで入力するならいくらでも試せるのですが金庫で手作業となると……」
「大体2兆8000億通りですからねぇ…… ヒントも何もなしに無茶ですよね…… 主人、一体何を入れていたのかしら」
ヒントは目の前に並んでいる東南アジア系の置物の中にあってそのままだった事を知ったらどんな反応をするだろうか。
「本当に気になりますね」
見事なすっとぼけであった。そのすっとぼけを見て稲葉白兎は「白々しい」と言いたげな目で岡田俊行を見た。
「それで、ご用件は?」
「辞めた生徒さんの中に犯人がいる可能性が浮上しまして…… 辞めた生徒さんの名前が何か分からないかと思いまして」
「と、言われましても先程もおっしゃいましたように辞めた生徒は名簿からも逐一消去してますし……」
「なら、この子の事はご存知でしょうか」
稲葉白兎は懐から一枚の写真を出した。先程一緒に見ていた個人指導室にいるところを写っている少年の写真だった。
「こいつ、いつの間にスリやがった」と、岡田俊行は稲葉白兎の耳元で言った。
「大丈夫です、健全な写真をチョイスしましたから」
そういう問題ではないと思ったが、これが突破口になればとも思いこの場は見逃すことにした。
「あら? 主人こんな写真撮ってたんですね…… この子は小濱照史(おばま、しょうじ)くん。国語が得意な子だったわね…… 確か辞めたのは家庭の事情だったかしら」
「家庭の事情以外で辞めることってあるんですかね?」
「ついてけないとか一緒に通ってる友達とトラブルがあったとかありますけど、細かくは言わずに大抵は家庭の事情って言いますわね」
「よし、小濱照史を徹底的に洗うんだ」
「まさか…… 小濱くんが?」
「まだ分かりません」
それだけ言って二人は塾を後にした。
最初のコメントを投稿しよう!