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「おはようさん」
白いスーツにワインレッドのシャツ、襟足の長い髪にオールバックの男が店に入った来た。その瞬間に目の前にいた小濱照史と大男に緊張が走る。
「おはようございます! オーナー!」
「おはよう、今日も綺麗だねテルコちゃん、頬紅変えた?」
「気がついてくれて嬉しいです~」
「おう、俺は女の変化には敏感だからよ。ところで、こいつら誰だ? まだ開店前だろ?」
「警察の方です」
こちらが説明する前に大男が言った。
「警察の方がどうなさったんですか? 私、この店のオーナーを担当させて頂いてる八田大輔と申します、以後お見知りおきを」と、言いながら胸ポケットから名刺を出した。名刺には名前と会社名に八田興行と書かれていた。八田興行とは彼の表の肩書なのだろう。岡田俊行が名刺を眺めているうちにいつの間にやら大男が耳打ちをしていた。
「ああ、殺人事件の捜査で……」
「ですから話を」
「すいませんがお引取り願えないでしょうか?」
丁寧な口調ながら怒気のある声をしていた。
「もう少しお話を聞きたいのですが」
「人間、誰しも脛に傷を持つものですし、穿られたくない事の一つや二つあるもんです、これでこのテルコちゃんを苦しめるのが警察のやることなんですか」
この言い方はかつて小濱照史が精鋭塾で何をされたか知っているかのように思えた。
「捜査に非協力的と取られても構いません。まさかと思いますがこれで公務執行妨害で逮捕るセコい手は使いませんわな」
その気になればこれで公務執行妨害と言うことにして話を聞く事も出来た。だが、それをやれば何か大切なものを失うような気がした。
「分かりました」
二人はそう言ってキャバクラ・まっしゅぽてとから出て行った。二人の姿が見えなくなった辺りで八田大輔は小濱照史に優しい口調で話しかけた。
「これで良かったのか?」
「すいません、オーナー。気を使って頂いて」
「うちのスタッフは守るのが俺の主義だ」
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