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「そう言えば小濱くんも僕と似たような時期にやめてたな…… 彼がこんな辛い状況だったのに何も出来なかったのか」
「気に病むことじゃない」
「ちょっと過去の清算しようかな」
参道求はスッとソファーから立ち上がった。そして隣の部屋にいた担当を呼び出した。
「黒石くーん?」
その瞬間に隣の部屋からこの前も会った参道求の担当が姿を表した。初めて一緒に事件を担当した時に水浸しになってた人であることを岡田俊行は思い出した。
「キャバクラ行こうか? 僕の取材費ってまだあるでしょ?」
それを聞いた瞬間に担当黒石は束になった伝票をペラペラと捲る。大半が電子乗車券の領収書であることからほとんどが交通費なのだと言うことが予想できる。
「この前もこんな事言って北海道の味噌ラーメン食べてすぐに九州の豚骨ラーメン食べただけだったじゃないですか、作品に関係ない取材はご遠慮願いたいと前々から……」
「いいじゃないか、今度の次の作品に書こうと思ったんだよ」
「これでラーメン紀行を書くと思ってたら結局書いたのはロボット忍者だったじゃないですか? アニメ化されてグッズも売れて大幅に得したから良かったですけど……」
大変なんだな…… この担当さん。と、岡田俊行は心の中で思った。
3人は夜9時前のゴールデンタイムに駅前の繁華街を歩いていた。当然、キャバクラ・まっしゅぽてとに行く途中の道のりである。参道求は駅前のコンビニエンスストアで何やら立ち読みをしていた。担当いわく「月曜日は読むものがある」だそうだ。
「あの、担当さん」
「なんでしょうか?」
「自分も付いてきて良かったのでしょうか?」
「まぁ、先生のお友達ですから」
「なんかワガママですよね、あの先生」
先程のやり取りを見ての率直な感想だった。
「否定はしませんが、一緒にいて楽しいんですよね」
「もう何年担当してるんですか?」
「かれこれ8年ぐらいになりますね、先生の持ち込みを見てからのずっとの付き合いです」
「8年も付き合いあるともう盟友みたいなもんですね」
「そんな事ないですよ、他の出版社にも書いてますし…… 先生にとって自分は数多くの担当のうちの一人にすぎませんよ」
そんな話をしているうちに参道求がコンビニエンスストアから戻ってきた。
「仲良さそうじゃん、何の話してた?」
「いえ、先生との関係のさわりだけを」
「あんまり、人の過去をペラペラと他人に話すもんじゃないよ」
冷たい口調で参道求は言い放った。そしてキャバクラ・まっしゅぽてとがあるビルの方にスタスタと歩いていった。
「すいません、怒らせちゃったみたいで」
「いえ、気にしないでください」
3人はキャバクラ・まっしゅぽてとに着いた。
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