ガニメデスの庭園

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「いらっしゃいませ!」 受付をしたのはやけに細身の黒服であった。その奥の方にいたニューハーフ達を見て担当黒石が困惑する。 「ここ、ニューハーフキャバクラじゃないですか! 奥さんにバレたら怒られますよ!」 それに構わずに参道求は受付に対応する。 「3名、VIPルームでお願い出来る? テルコちゃん単独指名で」 「あの、一見さんにはフリーで色んな女の子を見ていただきたいのですが」 「いやー、佐藤さんの紹介でね。テルコちゃんって娘(こ)がすっごい癒やされるって言うからどうしてもどうしても会いたくてね、駄目なら帰る、ごめんね」 根も葉もない嘘をよくもまぁ並び立てられるものだ。岡田俊行は白い目で参道求を見つめていた。そこに担当黒石が耳打ちをする。 「社会人時代に得たノウハウらしいですよ」 小説家は社会人じゃないのだろうか。こんな事を考えているうちに最奥のVIPルームに通された。 「テルコちゃん今接客中だから、来るまであたしが担当させてもらうわね」 「ありがとう、君も綺麗だね」 「そんなことないですよ~」 そんな感じの話をしている中、先程の細身の黒服が注文を取りに来た。 「あの、ご注文は」 「じゃあリシャール」 それを聞いた瞬間に黒服が一瞬たじろぐのが見えた。 「え? 一本80万円だよ~ 本当にいいの~?」 「あれ? 財布を心配してくれてる? 気にしなくていいよ。ね?」 参道求は編集黒石に問いかけた。担当黒石の顔は青ざめていた。そんな顔も気にせずに参道求は続けた。 「良いよ、リシャールお願いします」 黒服はそれから程なくリシャールを持ってきた。妙な豪華な木箱に入っている時点でとんでもない酒だと言うのが見て取れた。 「すごいね~ 一見さんでリシャール頼むお客さんなんて初めてだよ~」 その時、黒服が話に割り込んできた。 「失礼ですが、御身分を証明出来るようなものはお持ちでしょうか?」 これを聞いて参道求は胸ポケットからパスケースを出し、更にそこから免許証を出した。この瞬間に黒服は一歩引いた。 「大変失礼致しました、これではごゆっくりお楽しみ下さい」 黒服は慌てた感じでVIPルームを後にした。 「この外見だからね、未成年に見られたのよ」 「でも、本当に若く見えますよね」 「別に良いよ、年齢聞いても」 この手の店で客に年齢を聞くのは禁忌(タブー)となっている。例外は客から許しを受けた時のみである。 「じゃ、おいくつですか?」 「34歳」 「うっそー! 全然見えない! ものすごく若いですよね!」 「若さの秘訣は……」と、言おうとしたところで小濱照史がVIPルームに入ってきた。それと同時に今まで接客していたニューハーフが立ち上がり、一礼した後に入れ替わりにVIPルームから出て行った。
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