42人が本棚に入れています
本棚に追加
「ご指名、ありがとうございます。テルコです」
「小濱くん、久しぶりだね! さぁ座って座って!」
それを聞いた瞬間に小濱照史は疑問の顔を見せた。どうやら小濱照史の方は参道求の事を覚えてないようだった。
「小濱くんだよね! いやー綺麗になったもんだね、劇的before after並に変わったよ君!」
「あの、昔どこかでご一緒してましたか?」
「精鋭塾」
小濱照史の顔が歪みだした。そして、横の方に座っていた岡田俊行の姿を見るなりその場から去ろうと踵を返そうとした。
「参道求だけど…… 覚えてない? 人違いだったらごめんね」
優しい口調でなだめるように参道求は言った。それに安心したのか小濱照史は横にゆっくりと座った。
「参道くん? どうしてこんなところに」
「お酒、飲みに来ただけ。横の二人は警察に担当。只の友達」
「もしかして、塾長のこと聞きに来たのか?」
「違う。って言うと嘘になるかな?」と、言いながら参道求はリシャールをグラスに注ぎ出した。そして、小濱照史に突き出した。
「言いたくない事があったら言わなくていいけど、話だけはしてくれないか?」
小濱照史は黙って頷いた。その表情は周りの薄暗い照明のせいもあってより暗くみえた。
「まず、何で塾辞めちゃったの?」
「……」
小濱照史は黙り込んだ。
「実は僕もあれから程なくして塾辞めちゃったんだよね」
「え? じゃあ参道くんも?」
「も、って? 同じ理由で辞めたと思ったの? 僕はただ単に勉強嫌いなだけだったんだけどな。もう一回聞くね。何で辞めたの?」
優しい口調ながらどことなく追い詰めているように感じたのは気のせいだろうか。
「じゅ…… 塾長に乱暴されて……」
「……」
今度は参道求の方が何も言えなくなっていた。この衝撃のカミングアウトに対する適切な返答があるだろうか。
「数学の個人指導があるって個人指導室に呼ばれたんだ…… そうしたら中で強引に……」
「誰かに相談…… 出来るわけないか」
「あんなの誰にも言えないよ…… 泣きながらウォッシュレットでケツ洗ってた時の気持ちが分かるか?」
「……」
参道求は黙り込んだ。本人ももう何を言えばいいのか分からなくなっていた。
「それから程なく塾辞めたよ、あんなところにいたくないし何よりあいつらが怖かった! 大人が怖かった! 性癖もおかしくなっちまった! 女が好きになれないし怖いんだよ!」
「だから自分も女になったのか、それに関してはとやかく言うつもりはない」
「できれば一生触れないで欲しかったな」
「その塾長も亡くなったんだ、少しは気が晴れた?」
「死んだって聞いた瞬間は嬉しかったけど…… それでもあの日の夜の事が消える訳じゃない」
「そう言えばさっき「あいつら」って言ってたけど他にも誰かいたの?」
それを聞いた瞬間に小濱照史は目を反らした。
「なぁさっき、言いたくない事は言わなくていいって言ったよな?」
「うん、言ったよ」
「なら言わない」
「分かった、なら話を変えようか」
最初のコメントを投稿しよう!