ガニメデスの庭園

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二人はグラスに注いでいたリシャールを飲み干した。この一杯だけでいくらぐらいするのだろうか。と、思いつつ岡田俊行もこんな高い酒呑んでいいのだろうかと思いつつ舌鼓を打っていた。担当黒石は「高い酒 領収書 落ちない」などとスマホで打ち込んで調べていた。 「そう言えば塾長の嫁さん元気だったなぁ。うちらが辞めた辺りで子供出来たみたいなんだよ。そのお子さんも今塾で講師やってるんだよ。二十歳の大学生の割にはどえれー頭いいんだな」 参道求がそれを言うと同時に小濱照史はリシャールを更にグラスに注ぎ込む。 「あ、あぁ、娘さんなんていたのか」 「そうそう、塾長と全然似てなくてさぁ無茶苦茶綺麗なんだよ」 「ああ、お母さんに似ただけだろ?」 「僕も通夜で初めて見たんだけどな、そのお子さん。年齢は確か二十歳だったかな?」 参道求は何かを掴んだのか酒のせいなのか不敵な笑顔を浮かべていた。 その時、八田大輔がVIPルームに入ってきた。 「本日はご来店ありがとうございます。オーナーの八田と申します」何故か参道求を見ずに岡田俊行に向かって言った。 「あの、警察の方にお話するような事は彼女には無いと前にご忠告させて頂いたと思うのですが」 優しい口調ながら怒気の強い口調であった。 「僕の友達なだけだよ、八田くん」 そこに参道求が割り込んだ。それを見た瞬間に八田大輔の表情がいきなり笑顔に変わる。 「求! 求じゃないか!」 「久しぶり、えっと……? 中学校の三学期の途中以来だっけ? 卒業式にも成人式にもこなかったよね?」 久しぶりに会った旧友二人のやり取りを見ているようであった。八田大輔は振り向き黒服を呼んだ。 「このお客様の勘定は全部俺が持つ」 「でも、リシャールですよ?」 「いいから俺が持つって言ってるだろ、文句があるなら(ゴニョゴニョ)」 後半部分は聞き取れなかったが多分「名古屋港に沈める」とか「三河湾に沈める」などと言った脅し文句なのだろう。青ざめた顔をしながら黒服はVIPルームから出て行った。それを聞いて一番安心したのは担当黒石だろう。80万円の領収書を切る必要が無くなったのだから。 「あの、オーナーお知り合いなんですか?」 「俺の職業知ってるだろ? そのせいでほとんど友達いなかったし、寄ってくるやつもいなかったんだよ」 ヤクザの息子となれば本人はともかく親が近寄らせないだろう。 「こんな中よく一緒に遊んでくれたのがこの求だよ」 「そうなんですか」 「こいつは優しくしてくれたしなぁ…… こいついなかったら多分ひねくれてどうしようもないクズになってたと思うんだよ」 ヤクザがそれを言っても一切説得力は無いとこの場にいた全員が思った。そんな思い出話を延々するだけして八田大輔はVIPルームから出て行った。去り際にこうだけ言い残した「テルコちゃん、こいつならあいつと違って信用出来るよ」あいつとは多分警察である岡田俊行のことなのだろう。顎で差されただけに岡田俊行にもそれを察する事が出来たのは不愉快な気持ちになった。ちきしょうリシャールでも呑まないとやってられねぇ! 岡田俊行はリシャールを呷った。いつの間にかリシャールの瓶は空っぽになっていた。 「じゃあ、帰ろうか」 参道求はスッと立ち上がった。 「あれ? 延長しないのか?」 小濱照史が尋ねる。それに対して参道求はこう返した。 「聞きたいことは全部聞けた。辛いこと聞いてごめんね」 三人は店を後にした。何気にリシャールの半分以上を呑んでいた岡田俊行の足は千鳥足になっていた。 「おいおい、警察官がこんなにへべれけになっていいのか?」 「仕方ないだろ……」 「とりあえず今日はうちで寝ろ。後は密室トリックを暴くだけだからな」 岡田俊行はこの一言を聞いて一気に酔いが冷めたような気がした。それでも頭がボーッっとしているところやはり酔ったままであった。 「え? 犯人分かったのか?」 「確定では無いけどこれをネタに脅すことぐらいは出来るだろう」 とんでもないことを考える奴だと思ったところで岡田俊行はそのまま担がれたまま眠りに堕ちた。
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