ガニメデスの庭園

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「よぉ、よく眠れたか?」 「ああ、最高の朝だったよ」 「これは何よりだわ。おい、飯」 参道結里加は岡田俊行と同じ朝食を参道求の前に出した。 「またか、たまには洋食とかあってもいいんじゃない?」 「すいません、朝食に出すような洋食は専門外です」 「この会話もう何回もしてるよね、いつになったら洋食出てくるの?」 「いつも授賞式や取材先のホテルなどで食べてるかと思われますので」 「まぁ良いけど…… 今日のだし巻き卵の出汁何? 魚醤?」 「惜しい、ナンプラーです」 「正解にしてよぉ~」 「魚醤とナンプラーの違いも分からない舌で文句言うんじゃありません」 なんだかんだ仲いいんだな…… こいつら…… リア充爆発しろ! 岡田俊行はこう怒鳴りたい気分になっていた。 「そう言えばトイレの鍵の調子どうだ?」 「先程も岡田さんが……」 「やっぱりか、業者呼ぶか?」 「お金かかるじゃない、ホームセンターで鍵一式買って来てあなたが直してよ」 「おいおい、ドライバー回すぐらいなら一行でも書いてくれってまた担当に文句言われるよ」 「締切も大事だけど家の保全も大事です」 朝食を食べ終えた辺りで参道求はトイレの前で何やらドアの開け締めを行っていた。岡田俊行はこれを横で眺めていた。 「この手の鍵っていくらぐらいするんだろうな」と、参道求が尋ねた。 「俺に聞かれても知らねぇよ」と、言いつつも岡田俊行は持っていたスマートフォンで「ラッチボルト 値段」で検索をかけていた。通販サイトでずらりと出てくるラッチボルトの値段は1900円前後であった。 「1900円ぐらいだぞ」 「手頃な値段やな」そう言いながら参道求はドアの鍵部分にあるネジをドライバーで外していた。ネジを全部外すと同時にトイレの扉のドアノブ部分だけが完全に取れた。参道求は外れた。ドアノブ部分を廊下の床に置いた。岡田俊行はその置いたドアノブ部分を拾い上げてところどころ回しながら観察した。 「へー、ドアノブってこんな風になってるのか」 「塾長が亡くなった個人指導室のドアとほぼ同じだぞこれ、外側に硬貨入れるくぼみがあるか無いかの違いなんだよ」 「そう言えばさっきも奥さんに鍵開けて貰ったんだよ」 「ひょっとして出る時に硬貨で……」と参道求が呟いた。 「それはない、そもそも個人指導室の扉はくぼみが無いんだよ」 「そっか、あそこ外側からは鍵開けられなかったな、忘れてたよ」 可能性を潰されたところでまたもやいつの間にかいた参道結里加が手になにやら持って話しかけてきた。 「あなた? 昨日暑中見舞い作ってたんだけど」 「ああ、そんな時期だったな」 「プリンターのインクが丁度切れたのよ。これから出かけるならカードリッジを電気屋さんの回収ボックスに出してきてくれないかしら」 「あ? 燃えないゴミじゃ駄目なん?」 「燃えないゴミは3日後なのよ」と、言いながらインクカードリッジが入ったビニール袋を参道求に突き出した。参道求が袋の中を見るとビニール袋の中はインクが漏れ出して見るも無残な状態になっていた。 「おい、まだインクたっぷりあるじゃないか」 「プリンターってインクの残りが半分ぐらいでも残りわずかって表示されるもんでしょ? あなたならよく知ってる事じゃない」 「大手の中の大手でもやってることだからな、インク商法とはよく言ったもんだわ」 参道求はため息をついた。それと同時に僅かにインクカードリッジの入った袋を傾けるとポタポタとインクが床に落ちた。それを見て岡田俊行はいつも証拠品を入れる時に使うジップロック付きのビニール袋を差し出した。 「これ使えよ」 「助かる」 参道求はインクがポタポタと漏れるビニール袋ごとそのジップロック付きのビニール袋にインクカードリッジを入れた。入れて程なくしてそのジップロック付きのビニール袋の中身もインクまみれになった。 「これ、電気屋の回収ボックスに入れても拒否されるんじゃないか?」 「あれは回収してから一度洗浄するからヒビ入って割れてない限りはどれだけ漏れてても問題無いらしいぞ、店員に確認した」 「そういうもんかねぇ…… そうだ、そろそろ精鋭塾に行こうかと思ってるんだけどな」 「ああ、じゃあその帰りに電気屋に置いてってくれよ、帰りはタクシー拾うから」 「公務員をアッシー君扱いにするなよ」 「忙しい小説家に知恵借りてるんだからこのぐらいの約得は許してくれよ」
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