ガニメデスの庭園

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 個人指導室は多少血の臭いこそ減ったものの二日前に来たときとなんら変わりは無かった。参道求はこの前と同じ様に部屋の中を徘徊していた。 「やっぱり何にも無いか」 窓から外を見ても何もない。窓の下には多く並んでいる塾生の送り迎えの為なのか色とりどりの車が並んでいた。 「真下は駐車場なんだよなぁ」 「ああ、駐車場の土地もこの塾の持ち物だよ。新年ともなればあそこに塾生全員集めて決起集会なんてのもやってる」 「凶器を投げ捨てればあそこの駐車場から何かしら出ると思ったんだけどな、石ころ一つからもルミノール反応すら出やしなかったよ」 「抜けた乳歯みたいに上の屋上に投げたとか?」 「おいおい、もう少し真面目に考えてくれよ? こんな少ししか開かない窓で上に投げるなんて不可能だ。それに普通の窓だったとしても上に投げたら屋上の安全柵で引っかかって結局駐車場に落ちてくる」 「犯人がタフガイだったとか? 昔、何キロもある樽を背面に投げるバラエティ番組見たことあるぞ」 「おい、懐かしい話だな。あれは規格外のタフガイだったから出来た事だぞ。この塾にこんなタフガイなんかいるわけがない。何より屋上からは何の痕跡も発見されてない」 「そっか……」 参道求はこんな話をしながらやっぱり部屋の中をウロウロしていた。そうしているとかつて血溜まりがあった場所に書かれていた白線を踏みそうになった。 「おい! 白線踏むなよ!」 「ああ、済まない。ん?」 参道求は何かに気がついた。 「ここ、窓際の壁血まみれよね」 「そりゃあ窓際でめった刺しにしたんだからこうなるだろ」 「窓際の壁じゃなくてその両側の壁? 一滴も血ついてないよね? もう拭いたの? 血しぶきの白線が全く無いようだけど」 「現場保存守ってればそんな事は無いんだけどな、ここの全部の壁にはルミノールも吹きかけたけど何も反応無かったぞ。反応が出たのはこの窓がついた壁と床の血溜まりだけだ」 「ルミノールって拭いても拭いた痕が光るんだよな」 「だから壁を拭いたって事はない」 参道求は少し考え込んだ。メモをしようと思って手持ちの鞄に手を突っ込んだ。すると今朝参道結里加から預かったインクカードリッジが目に入った。それを見て参道求の中に一つのひらめきが生まれた。そして、ホワイトボードの隅の方にあったゴミ箱に向かって走った。 「ゴミ箱か? 何も出なかったし紙ゴミしか無かったぞ」 その通り、何やら英語の問題集のコピーがグシャグシャに丸め込まれた紙ゴミしか無かった。しかし、参道求にとってはこんなものはどうでもよかった。更にその向こう側を見ていた。そして激しくゴミ箱をひっくり返した。そこには何も無かった。 「分かった、けど分からない」 意味の分からない事を言うなと思いながら岡田俊行は部屋を後にした。それを見て参道求も小走りでついていった。
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