ガニメデスの庭園

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 岡田俊行が話に割り込んだ。今まで死体の発見者に関しては資料でしか見てなかったので知らなかった。直接会うのは初めてであった。 「はい……」 先程までの笑顔が嘘のように曇る。仕方ないだろう。 「辛かったね…… これからフラッシュバックのように思い出すことあるかもしれないけど時が解決してくれるからこれまで頑張って」 「はい……」 やっぱりその顔は暗かった。そんな中、茂部紗子に一つの疑問が頭をもたげた。 「ところで参道先生どうしてこの塾に来てるんですか?」 「ああ、この塾に一時期通っていた事があって塾長夫人に哀悼の意を」 「ならあの件は関係無いのか……」 「あの件?」 「失礼ながら先生の通ってた高校なら別に長い時間勉強しなくても入れる高校ですよね」 「ああ、ぶっちゃけた話名前書けば合格出来るようなところだよ。どうでもいいけど著者近影まで真面目に読んでくれてる読者に会えて嬉しいよ」 そんなとこだったのか桃花仁高校。そんな事を思いながら岡田俊行は話を聞き続けた。 「ここの塾、実は裏口入学やってまして。それをネタにした新作の取材かと思っちゃいました」 ここに来ての新情報である。この前の事件の「裏口」じゃなくて、いかがわしい意味の方の「裏口」であった。しかし、高校受験の裏口入学を塾が斡旋してるという話は岡田俊行にとっては信じられなかった。 「ここの塾40年近くやってるじゃないですか。この時に雇った講師達も独立して色んな道に進んでるんですよ、この中に皆が行きたがるような名門私立高校のお偉いさんなんかもいるんですよ。そこにコネがあって」 「このお偉いさんが受験生の名簿から精鋭塾の生徒を見つければ……」 「ほぼ自動的に合格になると思います」 呆れた話だ。岡田俊行は頭を抱えた。 「けどここの生徒さんならこんなの頼らなくても合格は出来るんじゃ」 「この話はここからがミソなんです。どうしてもB判定やC判定で合格が危うい人っているじゃないですか」 「まぁ受験ってこんなもんだからね」 「そんな生徒に塾長が言うんですよ「個人指導」をしようって」 「まさか」 「個人指導が終わった生徒はB判定やC判定、もしくはもっと下だったのに合格してるんですよ。塾としては奇跡が起こったとか神風が吹いたみたいな事は言ってますけど、絶対に寄付金とかの交渉とかで裏口開いてますよね」 開いてるのはもっと別のものだと言いたかったが二人は黙っておいた。さすがにセクハラが過ぎるというものである。 「塾長の個人指導…… 男子ばっかりだったんだろうね」 「いえ、ここ数年は女子も受けてたみたいですよ」 「これ本当?」 「はい、この塾に通ってた先輩がこれで名門私立高校に合格してますから」 その先輩に詳しい話を聞こうとしても多分ロクな答えは返ってこないし何も言わないだろうなと言うことを二人は悟った。 その時、窓の外に通塾バスがバックで停車するのが見えた。 「あのバスまだ使ってるのか。車検とか大丈夫なのかね」 「あのバス、長いみたいですね。私も乗ってましたけど」 「そうそう、あれでキャンプにも行ったんだよ。キャンプの荷物をルーフキャリアに積んで……」そう言うと同時に参道求は慌てて外に向かって駆け出した。岡田俊行は茂部紗子に一礼だけした後に追いかける。 参道求がいた先は駐車場の通塾バスの前であった。参道求はずっと上を向いていた。その目線の先には個人指導室に唯一存在するドレーキップ窓があった。 「なるほど」 そう言って参道求は塾内に戻っていった。 そして、塾内の部屋全てにあるもののチェックを行った。そのチェックが終った瞬間に真相に辿り着いたのであった。
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