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「そうよ、この部屋完全に密室だったのよ! 主人を殺した後どうやって出たって言うのよ!」
「単純な鍵の仕組みを知ってれば誰でも出来る事ですよ」
「あの鍵はトイレの鍵とか違って緊急時に外から開ける仕掛けなんて無いのよ、それと同時に外から閉める仕掛けも無いのよ。どうやって密室を作ったって言うのよ」
「ラッチボルト式ってラッチボルトを固定して錠をする鍵なんですよ? 知ってました?」
「当たり前じゃない」
「そのラッチボルトの固定にはその内側のサムターンを回して固定するんですよ。そのサムターン90度まで回るんですけどね、そのサムターンを90度に回し切るまではラッチボルトは意外にゆるゆるなんですよ」
参道求はドアでそれを実演した。サムターンを80度ぐらいまで回しているのにラッチボルトそのものは軽く押すことが出来た。90度にした途端にラッチボルトは完全に固定されて動かなくなった。
「あなたは80度くらいまでサムターンを回してそこで止める。後はそのまま部屋から出るだけで」と、言って参道求はそのまま個人指導室から出た。ドアを閉める音がなると同時にサムターンはドアを閉めた時の勢いで80度から90度の角度となり、個人指導室に鍵がかかった。
「おーい、開けてー」
個人指導室の外に閉め出された参道求が声をかける。それを聞いて岡田俊行はすぐにドアの鍵を開けた。
「これ、お前の家のトイレで……」岡田俊行が呟く。
「ガキどものイタズラでピーンと張ったって訳よ。それにガキども何回かやってるせいかラッチボルトの爪の斜めの部分がキズキズになっててな、それと同じキズがついてたんだよ。こうやって部屋を出るために何度か練習したんじゃないですか? 先生?」
参道求が尋ねても東野尚子は眉一つ動かさなかった。それどころか含み笑いを浮かべていた。
「面白いこと言うわねぇ。あなた小説家になった方がいいんじゃないかしら」
「その小説家なんですけど」
「けどそれじゃあ点数は上げれないわね。こうすれば確かに内鍵をかけたまま外に出られるわ。どんな格好で出たのかしら? 犯人は血まみれだったんでしょ? そんな格好で外に出れば塾生なり誰かが気がつくじゃない」
「そうだぞ、あれだけめった刺しにすれば返り血を浴びないはずがない。着替えたにしても塾内の捜索で血まみれの服なんてものは出てきてない」岡田俊行が会話に割り込む。家宅捜索でも何も出てこなかった事は資料にも書いてある揺るぎない事実であった。
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