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参道求はため息をついた。そして悲しそうな口調で言った。
「僕が小6の時に塾生みんなで行ったキャンプ…… 覚えてます?」
「と、唐突に何よ…… 勿論覚えてるわよ」
「あの時、通塾バスの屋根に薪とかテントとか色々積みましたよね? 今でもキャンプ行ってたりするんですか?」
「小学校6年生の塾生さんとは中学生の夏期講習が終わるぐらいのお盆で行ってるわよ、それがどうかしたの?」
「今頃ならルーフキャリアも通塾バスの屋根に取りつけてますよね」
「えぇ、夏期講習で切羽詰まった今だからこそキャンプもその準備も楽しみにしてたのよ…… 私達」
「さっき、予備のビニール袋の話しましたよね」
「確か予備は二枚って言っていたな。一枚は凶器のナイフと一緒に使ったと言っていたよね? じゃあもう一枚は」
「その凶器のナイフとビニール袋を包むのに使ったんだよ。ナイフがどれ位の大きさか分からないけど血まみれのナイフと血まみれのビニール袋を包むぐらいならビニール袋一枚あれば十分に足りるだろ? これら全部を包んだとしてもドレーキップ窓の隙間からなら十分に落とし捨てる事は可能だ」
「まさか、その落とし捨てた先に……」
「そう、ルーフキャリアのついた通塾バスがあったんだよ。普通の車の屋根の上にビニールにくるまったナイフが落ちれば跳ね返るだけだけどルーフキャリアの中に落ちればそのまま車の上に乗るだろ? 後は通塾バスが仕事として塾生の送り迎えをするだけで凶器もビニールもこつ然とその場から消えるってことだよ」
「消えても通塾バスなんだから結局は塾に戻ってくるだろ? これあんまり意味ないんじゃ」
「とりあえずその場から凶器とビニール袋を消す事の方が大事だったんだよ。あんな血まみれの凶器を塾内に隠すにも持ち歩くにも何かと良くないだろ? だったら一時しのぎでも塾から離して、バスが戻ってきた後に処分すればいい」
それを聞いて東野尚子は黙り込んでいる。
「ところがトラブルが発生した。バスのガソリンが不足していたから運転手が本来送るはずだった二人を送迎する前に一旦ガソリンを入れに行ってしまったんだ。本来ならあなたと娘さんと男性講師だけで死体を発見する予定が余計な二人まで追加されてしまった。それは同時に凶器とビニール袋の回収の遅れも意味していたんだ。なにせ凶器とビニール袋はまだバスの上にあるんだからな、事件発生以降最近まで塾は開かれて無かったから運転手はバスのまま帰ってるだろう。凶器を回収したいはずのあなたも警察の取り調べなどで動けなかっただろう」
「お、おい」
岡田俊行は困惑したような顔をしていた。
「ん? どうした?」
「ひょっとしてずっとバスの上に……」
「ああ、今日の昼前に自習室の窓からバスの窓の上を見たんだよ」
それを聞いて岡田俊行はすぐに稲葉白兎に電話をした。
「おい! 今日塾の近くに来てるだろ! すぐにバスの上のルーフキャリアを見てくれ!」
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