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「あれ? 皆さんどうなさったんですか?」手には他の部屋の掃除をしてきたためか箒とチリトリを持っていた。
「ごめんね…… 水輝ちゃん…… お母さんね遠くに行かなきゃならなくなったの」
「ちょっと、意味わかんないんだけど。そうだ、刑事さん来てるよ」
部屋の外には稲葉白兎が壁に体を預けながら今か今かと東野尚子を待っていた。回収したばかりのナイフとビニール袋の件で話を聞きに来たのだろう。岡田俊行はそれに駆け寄る。
「署までお願いしていいか?」と、岡田俊行は稲葉白兎に耳打ちをした。それだけで全てを察したのか手錠を懐から出した。
「ここでかけるな、せめて娘さんから見えなくなってからにしてやれ」と、稲葉白兎だけに聞こえるように呟いた。
稲葉白兎と東野尚子はエレベーターに乗った。ドアが閉じると同時にエレベーターのドアの窓からこちらに向かって深く一礼をした。そしてゆっくりと下に下がっていった。5階から4階についたあたりで「ガチャリ」と言った金属音がエレベーター内に悲しく響いた。
「もう、何なのよお母さん」
頬を膨らませながら愚痴る東野水輝。その間も個人指導室に散らばった紙吹雪をチリトリに纏めていた。それをゆっくりと部屋の隅にあったゴミ箱に捨てた。
「ガニメデスって知ってますか?」
参道求は唐突に東野水輝に問いかけた
「はい、ギリシャ神話に出てくる天界に誘拐された美しい少年ですよね?」
「ガニメデスみたいな少年達が誘拐されて天界で給仕係を経て神になったけど幸せだったんですかね?」
「父もギリシャ神話には詳しかったのでこの話はしたことがあるのですが…… 無茶苦茶な話ですよね。父は男女述べ積まなくものにしていたゼウスに対して嫌悪感すら抱いていました。ガニメデスは神になったけど失ったものもいっぱいあるって」
「そうですか」
参道求と岡田俊行は何も言わずに精鋭塾を後にした。その心中は穏やかなものではなかった。
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