アマルガムの祝福

34/36
41人が本棚に入れています
本棚に追加
/130ページ
「それで受取人に大木悠三の名前を書いてとりあえずは生命保険に加入させたってことか」 「彼女、笑顔で保険に入ってくれました。彼が保険金を受け取ったあとにそこから借金の借用書を渡してその分だけ私がもらうと言った感じの話なので極めてスムーズに進みました。後は適当なタイミングで名前にちょっと足すだけでした」 元保険外交員なのに名前の急な書き換えで保険金の支払いが無効になることを忘れていたのはお粗末としか言いようがなかった。 「それから三年経ったある日、つい最近になりますね。大金が必要になりました」 この事務所の現状と最近のパチンコ離れと言う現状を考えると単純に金が足りなくなっただけなんだろうなと言うことはここにいる全員が察していた。 「転売屋の並びなどに斡旋していたのですが、それでも足りなくて……」 「あんたが指示していたのか」 「ええ、債権者のホームレス一回の派遣で数万円」 「金貸してホームレスまで追い込んだのに更にそれで金儲けして更に搾り取るのか」 「それの何が悪い?」 太本ゆみは悪びれた状態であったが開き直ったような口調で言った。 「罪と罰の金貸しの老婆よりタチが悪いな」 「大木香須子を並びの派遣が終わった後の夜に駅前の橋の上に呼び出しました」 「駅前の橋と言うと第一発見者が死体を見つけた橋から500メーターも無いじゃないか」 「数分も流れて無かったのか」 「橋の上で大木香須子に会った私は「息子さんの為に死ぬ時が来たわ」と言いました。そうしたら彼女は泣きながら「やっと息子に償いが出来る」って言ってたわ」 1億で許されるような事なのだろうか。岡田俊行と参道求は疑問に思っていた。 「それで息子が受取人になった保険契約書を見せてやったわ、自分の腹を刺す間際まで「本当に息子にお金が入るんですか?」って、数分後にはあたしの名前に変わってるとも知らずに、馬鹿な女よ」 二人共クズ過ぎて三人は何も言えなかった。それに構わず太本ゆみは話しを続ける。 「直前になって思い出したの、あからさまな自殺は保険金が入らないって。だからナイフを縦に持たせたのよ、少しでも他殺に見えるように」と、だけ言ってヘナヘナとその場に倒れ込んだ。 「でもあたしはへこたれないわよ、あたしがやったのは単なる自殺幇助、殺人ほど長くは刑務所にブチ込まれることはないわ、出所したらまた上り詰めてやるわよ」 その時、部屋のドアが開いた。入って来たのは嶋村毅でだった。
/130ページ

最初のコメントを投稿しよう!