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「他の講師の個人指導は自習室で机2つ使ってのマンツーマンだけどな」
「この塾に通って3年目だけど未だに最上階の部屋とか行ったことねぇな」
「俺らは行く必要が無いからな」
「いつも大教室だもんね。俺ら」
「自習室が一番快適なんだけどね」
そんな話をしているうちに通塾バス出発の放送が入った。
「もう、こんな時間か」
女性塾生が腕時計を眺める。時間は8時を少し過ぎるぐらいであった。
「あたし、9時まで自習室で自習するわ」
「あたしも」
「じゃあ俺は帰るわ」
二人の女性塾生が自習室で数学の自習をしている時、塾長の娘、東野水輝(ひがしの みずき)が慌てた顔で走ってきた。
「あれ? 水輝先生? どうしたんですか」
「あなた達、塾長知らない?」
「知らないですけど……」
「あたし達、今日は塾長の数学を受ける日じゃないので会ってすらいないです」
「そう、ありがとう」
そう言って東野水輝は走っていった。
「どうしたのかしら」
「塾長、いないみたいね」
「あたしらだってあんまり会わないよねぇ」
そんな事を言いながら二人は自習を再開した。更にそこから一時間が経過し通塾バスの最終便出発の放送が入った。
「そろそろ帰ろうか」
「そだねー」
塾の正門前には帰りの出迎えで塾長夫人の東野尚子(ひがしの しょうこ)が立っていた。
「尚子先生、塾長見つかったんですか?」
「ん? どういう事かしら?」
「さっき水輝先生が塾長探してましたよ」
「あの人、今日は個人指導とかで最上階の指導室で個人指導やるって話しといたんだけどねぇ」
「とりあえず今日はもう疲れたでしょう。あなた達は帰ってもう寝なさい」
「「はーい」」
それと同時に若い塾講師が慌てて走ってきた。
「すいません! 指導室の鍵ってお持ちでしょうか?」
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