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「あそこはトイレやお風呂の鍵と同じで内鍵だけで外からは開かないんだけど」
「鍵掛かってるので中にいるのは間違い無いんですけどお返事が無くて、何かあったのではないかと」
若い塾講師と東野尚子は慌てて走っていった。それを見ていた二人にバスの運転手が話しかけた。
「すいません、ガソリンが残り少なくなりまして…… ガソリンスタンドとお二人の家が正反対の方向で遠回りになるんですよ…… 先にガソリン入れてからまたここに戻って拾う形にしたいのですが」
「はい、構いませんよ」
「別に急ぎで帰らなきゃならないってことも無いので」
「助かります、それじゃあ」
二人はバスから降りた。ガソリンスタンドに給油に行くバスを見送りながら言った。
「あたし達も行こうか? ここで待ちぼうけしてるのもアレだし」
「そうだね」
二人が最上階の個人指導室に付くとそこには普段ではありえない光景が広がっていた。
東野尚子がひたすらにノックをし続けている。
「あなた! いるんですか?」
東野尚子は悪徳金融会社の取り立てのノックの如くドアを叩く。しかし反応は無い。
「まさか中で何か……」
東野尚子は携帯電話をかける。発信音こそ鳴るものの反応は一切無い。
「携帯事務室に置いていったのか」
「あなた! どうしたんですか!」と、言った後に横を振り向くと先程最上階に来た女性塾生二人に気がついた。
「あなた達! 一階の事務室に行って男の先生呼んできなさい! 早く!」
こう言われて女性塾生二人は一階の事務室に走る。事情を説明し、アルバイトの大学生講師を連れてすぐに戻ってきた。
「あなた達、ドアを蹴破って下さい! 私が許可します」
男性講師二人はドアを力の限り蹴っている。ドアを蹴る激しい音が塾内に響き渡る。
「じゃあ、せーので同時にタックルしますよ」
「「せーのっ」」
ばん、と言った鈍い音がして鍵が壊れたのかドアが開いた。そのドアの向こうにあったのは信じられない光景であった。部屋の窓際には血の海が広がっていた、その血溜まりの真ん中には塾長、東野正明(ひがしの まさあき)が全身血まみれの状態で壁に倒れ込んでいた。
「あ、あなたーっ!」
東野尚子は声の限りを尽くして叫んだ。
「お、お父さん」
東野水輝はその場に倒れ込んだ。
男性講師の一人はその場で吐きそうになるのを必死に耐えていた。もう一人の方の男性講師は何も出来ずに腰を抜かしている。
女性塾生は倒れそうになるのを必死で耐えていた。そして、持っていたスマートフォンを構えた。
「バカ! 何こんな時に写真撮ろうとしてんのよ!」
「ち、違うの…… 救急車呼ばないと…… あれ? あれだけ血が出てるんだから警察?」
「こんなの警察に決まってるじゃない…… それより、ここあたしら来るまで鍵かかってたよね?」
「内鍵で外からは開けられないはずよね……」
「ここ5階よね…… 窓も一個しか無いし」
犯人は塾長を惨殺した後、どうやってこの部屋から出たのか。この完全密室殺人から物語は始まる。
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