41人が本棚に入れています
本棚に追加
/130ページ
「お母さん! ちょっと!」
「なんですか騒々しい」
「こんなに香典貰っちゃったけどいいの?」と、言いながら香典袋を東野尚子に手渡す。東野尚子は香典袋の中身を見て驚いた、明らかに30万円近く入っていたからだ。香典の相場を考えても明らかに多すぎるぐらいである。
「その人は?」と、東野尚子が尋ねると「その人」はいつの間にかこちらに来ていた。
「お久しぶりです、先生」
目の前に現れたのは見慣れた顔、参道求であった。参道求は同じく見知った顔である岡田俊行の顔が目の前にあるのに全く見ようとせず東野尚子だけを見ていた。
「参道、どうしてこんなところに」
岡田俊行は参道求に尋ねた。
「あれ? 岡田くんじゃないか? 君こそどうして」
「事件の捜査に決まってるだろ」
「ああ……」
参道求は訝しげな顔をした。それに構わず東野尚子が話に割り込む。
「あら、お知り合いが何か?」
ここで「捜査協力者」と言う訳には行かないので二人は目配せをして適当に誤魔化すことにした。
「はい、警察小説の取材で知り合いになりまして」
尤もらしい言い訳だった。
「あら、参道くん有名小説家だったわね。いつもドラマ見てるわよ」
「どうも」
原作は読んでいないのか。参道求は心の中でちょっぴりガッカリした。参道求は岡田俊行にここに来た理由を説明し始めた。
「僕、この塾通ってたんだよ。前に話しなかったっけ?」
それを言われて岡田俊行は思い出した。前に担当した中学生二人が溺死させられた痛ましい殺人事件。そのうちの一人の伊藤雄二が通っていた塾こそが精鋭塾だった。その話をした時に参道求もこの精鋭塾に通っていた事を言っていたのだ。
「ああ、そう言えば言ってたな」
「塾長にはお世話になったからね、焼香をあげに来たんだよ。新聞のお悔やみ欄でお通夜が今日だと知ったから慌てて来たよ」
三連続で事件に繋がりがあったことに岡田俊行は参道求が自分の立場を生かして犯罪アドバイザーみたいなことをしてるんじゃないかと疑いの目を持ち始めた。
「でも参道くん中学2年の時に唐突に辞めちゃったじゃない、あたし達あなたには期待してたのよ」
先程、特別に出来る生徒を伸ばすと言っていた方針と言っただけにこいつは本当に期待されていたんだろうなと岡田俊行は思った。
「ちょっと、色々ありましてね」
「それで、どこの高校に行ったの? あなたなら大概どこでも行けたはずよ」
それを東野尚子が言った瞬間に参道求は渋い顔をした。何か痛いところを突かれたのは明らかであった。
最初のコメントを投稿しよう!