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「悪かったな、聞き込みの邪魔して」
通夜の会場から塾に向かう岡田俊行の車の中で参道求は謝った。
「いや、いい。聞きたいことは聞いた後だったし」
「今回も捜査協力、するの?」
「なんだ? 嫌なのか?」
「この前と違って一応は思い入れのある人が被害者だから…… ちょっと気持ちがモヤモヤしてるかなーって」
「嫌だったらやめても」
「いや、やる」
二人が精鋭塾に着いてすぐに事務室に向かった。事件とは直接関係ない部屋ではあったが東野尚子の許可を得て警察の待機室になっていた。その部屋を見て岡田俊行は驚いた、部屋の中は事務室とは思えないぐらいに多くの東南アジア系の置物があった。
「変わらねぇなこの部屋も」
「何このエスニックな雰囲気は」
「塾長夫妻の趣味だよ、受験が終わるぐらいに東南アジアに旅行によく行くんだよ。その度に何やら人形やらタペストリーやらお土産に持ってきて飾るからこんな感じの部屋になったらしいよ」
「ご苦労さまです」
話しかけてきたのは鈴木巡査であった。岡田俊行が鈴木巡査と現場を一緒にするのは二度目であった。
「あれ? もう参道先生にご協力を依頼したのですか?」
横にいる参道求を見ながら鈴木巡査は言った。
「いや、偶然会っただけ」
「そうですか、今回は参道先生はご遠慮した方が……」
「どうして?」
「血の臭いが……」
「え、今回新聞やネットニュースでしか知らないけど死体そんなに酷いの?」
「全身めった刺し」
それを聞いた瞬間に参道求の表情が曇った。流石のこいつも苦手なものはあるのか。
「こういう時に限って夕飯にボルシチとかトマトジュースとか出してくるんだよなぁ…… うちの嫁」
給食がカレーだと夕食もカレーになると言う謎のシンクロニシティがあった事を岡田俊行は思い出していた。これと違って嫌なシンクロニシティであった。
参道求は勝手知ったる自分の家かのように塾内を闊歩していた。遠い過去にいただけの塾なのにこれだけ良く覚えていると言うことは彼がいた頃からこの塾はあまり変わっていないと言うことだろう。歩き回るうちに最上階の個人指導室の前に辿り着いていた。
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