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「ここか」
そう言って岡田俊行は個人指導室のドアを開けた。ドアを開けた瞬間に血の匂いが鼻腔をつんざくように入ってきた。二人は思わず鼻と口を押さえた。
「おい、事件から数日だよな」
「一応血は拭いたらしいがそれでも酷いな」
二人は東野正明の死体があった壁に向かった。壁には東野正明の死体の形に合わせた白線が描かれていた。
「塾長、倒れなかったのか」
「倒れなかった。と、言うよりは壁にもたれかかったまま死んだって感じかな?」
参道求は鼻と口を押さえながら個人指導室内をウロウロする。
「なぁ? 塾長はここで誰を個人指導するつもりだったんだ?」
「今、調査中だけどそれがどうかしたか?」
「いや、ホワイトボードを塾長が使った形跡が無いんだよ」
「どうして分かるんだ?」
「塾長の担当教科って数学だろ? それなのに数式が書かれた形跡がどこにも無いんだよ」
「ホワイトボードなんだから消せば無いのは当たり前だろ?」
「違う、そういう事じゃないんだ」と、言いながら参道求はホワイトボードの一点を指さした。
「ここに英語の文法が書いてあるだろ?」
「あれ? 見えないぞ」
「違う、もっと目を凝らして見るんだ」
岡田俊行は参道求が指さした一点を注視した。薄っすらと英語の文法が書かれているのが見えた。
「ホワイトボードって残るんだよ」
岡田俊行は捜査本部で使われているホワイトボードも長年使っているせいか相関図の矢印がうっすらと残ってる事を思い出した。
「長年書かれていればこのぐらい残るだろ?」
「その長年書かれているうっすら残った文字の中に数式が全く無いんだよ」
こう言われて岡田俊行はホワイトボードの全体を見回した。確かにアルファベットは散乱して書かれているように見えるが数式は全くと言っていいほど書かれていなかった。
「それに部屋の端に固めてある机4つ、なんでだろうな?」
「別に机が4つ固めてあっても不思議じゃないだろ」
「ここ、マンツーマンの部屋だぜ? 予備の机にするにしても多すぎる」
「確かになぁ…… マンツーマンなら最低でも机一個で良いはずなのに、予備にするにしても他の部屋から持ってこればいいだけなのに」
そう言って参道求はドアの調査に入った。
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