ガニメデスの庭園

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 二人は個人指導室を後にして再び事務室に向かった。相変わらずの東南アジア系の雰囲気が部屋には充満していた。岡田俊行が何気なく東南アジア系の置物を見ていると一つだけ一際異彩を放つ人形があることに気がついた。それは星座で見る水瓶座の小さな置物であった。 「なぁ、東南アジアの方で水瓶座って崇拝対象にあるのか?」 「聞かないね。どちらかと言うと魔除けの為の獣とか妙に色彩豊かな神様仏様の石像を崇拝する傾向にあるね」 「じゃあどうしてこの一個だけ妙にギリシャ神話っぽいんだろうな?」 「ああ、これガニメデスだよ」 「ガニメデス? 水瓶座の少年って名前あったのか?」 「詳しく説明すると長くなるからやめとくけど、簡単に」 「頼む」 「ガニメデスって言うのはギリシャ神話の登場人物でトロイアって国の王子様だったんだ。ちなみに超絶な美少年」 「この像見てるとそうは思えないが」 「ゼウス、ギリシャ神話の最高神な。その給仕係がクビになったんだよ」 「神話の世界にもクビってあるんだな」 「給仕係って言ってもただ身の回りの世話をするだけじゃなくて不死身の酒を神々に呑ませるって重要な役目があったんだよ」 「神々の不死身のトリックが分かったような気がしたよ」 「どうせだったら綺麗な奴に酒注いでもらいたいだろ? そこで最高神ゼウスは地上にいた少年ガニメデスをそれに指名したんだよ」 「壮大なキャバクラの指名の話だな」 「乱暴な表現をしたねぇ…… でも間違ってない。トロイアの国としては美しいし何より王子様、手放す訳がない」 「跡取りを養子に出すみたいなもんだからな、納得する訳がない」 「でも、神様達からしたらそんなの知ったことじゃない。だからガニメデスをゼウス自ら誘拐したんだ、鷹に化けたと言われてる。この辺りは諸説がいっぱいありすぎて何とも言えない」 「権力者も神も変わらねぇな」 「そんなもんだよ、最後はそのガニメデスは神になったから美談になってるけどな」 「無茶苦茶だな、神話」 ガニメデスの説明を終えたところで二人に向かって鈴木巡査が話しかけてきた。 「あの、警部補殿」 「どうした?」 「結局どこからもルミノール反応は出ませんでした」 「そうか……」 岡田俊行は落胆の顔を見せた。 「後、事件とは関係無いと思うので報告するまでも無いと思ったのですが……」 「どうした? 一応聞いとく」 「写真暗室の金庫が開かなくて」 「それに凶器とか入ってる可能性は?」 「それが、写真暗室自体がここ数年間使って無かったとのことでそれは考えにくいと」 「暗室? そんなのあったんだ」と、参道求が割り込む。 「今はデジカメの時代ですので使ってなかったと奥様の確認も取っております、金庫の方もご主人が使っていた金庫とのことで開け方は分からないとのことです」 そう言って鈴木巡査は事務室から出て行った。
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