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「本当関係無さそうだな」と、岡田俊行が呟いた瞬間、参道求は既に事務室の隅にあった写真暗室と書かれた扉に向かって歩いていた。
「あくまで可能性、だからね」
写真現像暗室は事務室の隅にひっそりと存在していた。電気を点けると暗室独特の赤い部屋では無く普通の照明の部屋であった。
「多分この辺に……」
参道求は適当にその辺りの棚を開ける。すると、埃の被った赤い電球が数個出てきた。
「あった、セーフライト」
「へー、暗室の電灯ってそんな名前なんだ」
「今は町の写真屋もデジタル作業だからね…… こういうのが廃れてくのは寂しく思うよ」
懐かしさ《ノスタルジック》に浸る参道求に構わず岡田俊行は部屋の隅に置いてあった金庫を発見した。
「これか」
岡田俊行は金庫をじっと眺めた、その金庫にはテンキーでもダイヤルでも無くキーボードの並びでアルファベット26文字に上には1から0までの10個の数字が並んでいた。鑑識が数回触ったのかそのアルファベットの下には溜まった埃が落ちていた。
「開けてみるのか?」と、参道求が尋ねる。
「奥さんの許可も無しに開けるのは仕方ないけど、しゃーないか、こんな時だ」
そう言いながらファイルからありそうな名前を入れてみた。東野一家のそれぞれの名前、塾の名前、誕生日、名前の逆読み、今持ってる資料で考えられそうなパスワードを入れてみたが金庫が開く気配は無かった。
「駄目だ」
「そりゃあ天文学な数の通りのパスワードになるからな、知るは塾長のみだったろうからねぇ」
「ヒントの紙すらないのか」
「塾長は数学教師だからね…… このぐらい覚えるし忘れることはない」
「そんな……」
「部屋に入った段階でルミノールの光が無かったからね、本当に事件には関係無いんじゃないの?」参道求は踵を返した、そのまま歩き部屋から出ようとしたその時であった。先程のガニメデスの像の目線の先が写真現像暗室にあることに気がついたのは。
「数学教師の割にはギリシャ神話に造形深かったんだよね」
参道求はそう呟いて金庫の方に走った。そしていつもの慣れた速度のタイピングで
ganymede
そう入力した。
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