澄子に疑われる

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澄子に疑われる

私がそこまで、考えたとき、 「…高見さん?…でしたわよ…」 と、澄子が私に声をかけた。 私は警戒した。 一瞬、明らかに、カラダがこわばった。 私よりも、小柄で、凡庸な外観の澄子だったが、明らかに、見た目と、中身が違うことがわかっている。 その女子高生のような可愛らしい声と、したたかな本性が、真逆であることがわかっている。 私は、一瞬、 「…」 と、返事をすることすら、忘れた。 「…高見さん?…」 もう一度、澄子が声をかけた。 私は、 「…ハイ…」 と、答えた。 「…すいません…考え事をしていて…」 「…そう…」 短く、澄子が言った。 続けて、 「…あら…どんなことを考えていたか、知りたいわ…」 と、言った。 私は面食らった。 まさか、そう来るとは思わなかった… 「…いえ、なんとも、立派なお屋敷だなと…」 と、当たり障りのないことを言う。 「…立派なお屋敷ね…」 澄子が意味深に呟く。 私は澄子を見た。 夫の直一同様、メガネの奥の目は笑っていなかった。 私の言葉を信じていないのは、明らかだった。 「…たしかに、素晴らしいお屋敷よ…」 と、澄子。 「…でも、そこに住む連中は、皆ワケありの人間よ…」 と、仰天することを言う。 自虐というべきか… 「…そう…ワケありの人間…高見さん…アナタも住んでみれば、わかるわ…」 「…いえ、私は…」 「…だって、高見さんも、正造と結婚すれば、この家に住むようになるのよ…」 「…」 「…もっとも、高見さんが、ホントに正造と結婚すれば、だけど…」 澄子が、私の反応を試すように、言う。 私は澄子の目を見た。 メガネの奥の目が、笑っていない… 真剣だった… …やはり、この澄子もまた、私、高見ちづるを疑っている… …本当に、米倉と交際しているのか、疑っているのだ… ここは、なにか言うべきか? 考えた。 米倉と交際していると力説するべきか? 考えた。 だが、それは、むしろ逆効果ではないか? 例え、本当に、米倉と交際しているとしても、力説すれば、なんとかなるものではない… むしろ、力説すれば、するほど、疑わしく感じられることもある。 それは、その物事が真実か否かは関係ない… 私は、そこまで、考えて、 「…」 と、無言でいた。 無言で、黙って、澄子を見た。 澄子のメガネの奥の目と、私の目が、ずばり睨み合った… 互いに、まっすぐに、睨み合った… 10秒、 20秒、 が、過ぎた。 私も澄子も、互いに、相手の目をはずすことはなかった。 我ながら、子供じみているが、自分から、目を逸らすのは、負けだと思った… かといって、このまま、黙って、澄子の目を見ているのも、おかしい… 変だ…
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