10人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
澄子の答え
我ながら、どうしていいか、わからずにいると、
ニッコリと、目の前の澄子が笑った。
「…アナタ…本当に、好子に似ているわ…」
澄子の第一声だった…
私は、
「…」
と、無言。
「…正造がどんな目的で、アナタを連れて来たのか、知らないけど、好子に良く似た、アナタなら、たしかに、父に気に入られるわ…」
「…」
「…でも、でもね…」
「…でも、なんですか?…」
「…高見さん…アナタは、好子とうまくいかないわ…」
「…どうして、ですか?…」
「…アナタ…好子に似すぎているのよ…」
「…」
「…身長も、ルックスも、似ている…同じように、小柄で、同じようなタイプの美人…これでは、まるで、どっちを選べと周囲に言っているようなものよ…」
「…」
「…ねっ? …そうでしょ?…」
「…だったら、好子さんの勝ちです…」
「…どうして、勝ちなの?…」
「…だって、好子さんの方が、私よりも、若いですから…」
「…高見さんより、若いから?…」
「…だって、世間では、女の価値は、年齢ですから…」
私は答える。
「…年齢?…」
そう言ったきり、澄子は黙った。
そして、一瞬後に、爆笑した。
「…高見さん…アナタは、正造が選ぶだけはあるわ…自分よりも、好子が勝る部分を上げる…でも、肝心のルックスは、どっちが上か言わない…頭の回転のいいひとね…」
「…」
「…ルックスは好みの問題も大きい…アナタと好子は似ている…小柄で、美しい…ちょうど、女優の常盤貴子を小柄にした感じ…でも、似ているのは、全体的なイメージ…顔を見れば、やっぱり違う…だから、どっちを選べと言われれば、個人の好みの問題になる…」
澄子は解説する。
私は、どう言うべきか、悩んだ。
が、結局、
「…」
と、答えなかった。
「…高見さん…」
「…ハイ…」
「…楽しくやりましょう…」
「…楽しく…ですか?…」
「…そう…楽しく…人生は楽しまなくちゃ…」
そう言うと、澄子もまた、踵を返して、私と直一の前から、去った。
まるで、嵐がやって来て、すぐに去ったような感じだった…
私は呆気に取られた。
直一が、
「…澄子は相変わらず、自分の言いたいことだけを言って、帰る…自己チューなところがある…」
と、言った。
「…初めて会った高見さんは、戸惑うかもしれないけど、澄子はいつもああなんだ…」
直一が説明する。
私は、黙って、首を縦に振って、頷いた。
頷きながら、内心、当惑した。
そして、この日を境に、この高見ちづるの運命が大きく変わることになる…
そんな予感がした。
<続く>
最初のコメントを投稿しよう!