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白旗開戦
門前町の団子屋、おばこ屋の女将おかねは、いつも怒っている。左腕を失って戦場から帰って来たはいいが、手伝いの息子らしい…のがなんとなくおかしい?山中に修行に行ったつもりだったのが、すぐ後ろにボーっと立って居たりする。会話が少し噛み合わないのも今は慣れてしまった。まあ普通の人間が見たら、ちょっと厄介なんだけど…どうやらおかねは、気にしていない様子ではある。
しかし今日はちょっと様子が違うのは何故か?
「前!何か忘れ物かい?」
何故かびっくりしている?この状態をさっきもして居なかったか?おかねは、なんとなく嫌な予感がした。
「ゼン?ゼンッテワタシ?」
嫌な予感的中!おかねは、慌てて鏡を取り出す。
「早く!速くお逃げ!追難の鬼がやって来る!…あんたまだ死にたく無いんだろう?」
鏡を向けたその直後、さっきのボーっとした人間から、とてつもない轟音が出て来る。
「俺を封印する気かおかね?」
鏡の中に大量の何かが逃げ出して居た。これを先ほどからずっと繰り返している。何かがこの人間の容をした器から飛び出したいらしい…その直後あるものが戻った。但しこれは何時それが起こってもおかしくはない状態でしかない。
「あたしゃあんたの管理を頼まれたけど、この時代の先まで往けやしないよ…。今は大阪の戦が終わったばかりなんだ、しっかりしとくれ!」
夏の陣が終わった事を、おかねはゼンの頭に撃ち込んでいる。名前の封印が溶けかけていた。そんなやり取りの最中に、何もない空中からポタポタと大量の手紙が落ちて来た。
「あんたどこにこの手紙貼ったの?」
気立てのやさしい鬼の家です。この時代にない印刷された。広告が大量に落ちて来た。
何時の間にか山伏が二人ゼンの後ろに控えている。
「八百様が皆さんを召集したいとの仰せです。すみませんがおかね様、前鬼を召集して頂けませんか?」
八百様とあれば、この危険な状態もおかねには理解できた。前鬼は自分をコントロールできない。ただ封じるのみの…おかねは異常事態に白旗を掲げるしかなかった。
「本学院坊の召集は、天海様に一任するとします。その事は果心居士に理解させておきなさい、ゼン!わかったね?」
緊急処置として、おかねはゼンを天海僧正の元に急がせた。直ちに残りの召集をかけなくちゃならない。八百様お一人では、最悪の結果になりかね無い。
そう思うとおかねの決断は、速かった。
「何時までボーっとしているんだい!とっとと行きな!」
おかねの怒号に、どこふくかぜの前がいた。
「そんなに大声上げてなにやってんだよ?天海の所から帰ったばかりだよ!客が来るから、火鉢出しやがれくそばばあ!」
みんみん蝉が泣いている?やはり異常事態が起きていた。ただおかねは何故かホッとしている。
「前、八百さまは、まだご無事なんだね?」
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