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“父子”
──2008年、2月14日。…バレンタインデーだ。
ここ、魔法学園グリモワールは8割が女子校みたいなもんだから、この時期の学園は何だか甘い空気が漂っている気がする。
…ぁ、チョコの匂いがとかじゃなくてな?今にも空からハートとかが降って来そうなムードってことだ。…分かるだろう?と冬の寂しげな青空に問いかけて見る。
俺「うへへへへへへ…」
「…相変わらず、この時期はホワイトチョコみたいに蕩けた顔してるよなー、兎ノ助って。」
「うおっ!?」
びっくりした…
「王子か…急に後ろから話し掛けるんじゃない!」
「…いや、どう見ても兎ノ助の方があらぬ方向を向いてたと思うんだけど。余所見してると折角のプレゼントが落ちるぞ。」
「お、おう…そうだな。」
俺はぬいぐるみだからチョコの代わりにぬいぐるみなんかを貰っている。…ぬいぐるみって言うかあれだ。ハートのちっちゃいクッションみたいな奴だ。(たまに割れたハートを笑顔で贈って来る子もいてちょっと傷付いている…。)
「ハァー…どうせお前は今年も沢山貰ったんだろう?」
「ふ…まぁね?♪」
胸元から何かを取り出す王子。…どうやら服の中に保冷剤を入れてチョコを持ち歩いてるらしい。…見せびらかす為か。何て女だろうか、コイツは…!
「げぇ!?“ナナコ”って…もしかして松倉先生かっ!?」
「ぁははっ♪貰っちゃった☆」
この野郎。
──女子からはチョコレートを沢山貰って。放課後は家に帰ってパーティーか…。正に王子様だな…。羨ましい!
「ところで風紀委員がチョコくれるのってどうなんだろうな?」
「か、佳奈からも貰ってるのか…!」
──当たり前だが、俺の知り合いは殆ど皆コイツにチョコをあげていることになる。…俺が貰うクッションの何倍貰っているのだろうかコイツは。
…寮の部屋にはチョコ専用の冷蔵庫を置いている程だ。開ければ天国と地獄を同時に拝むことが出来る。
「ははは…♪ステラやお姫様が太ってしまわないか心配だなぁ☆」
地味に、貰ったチョコはちゃんと全部1口/1個以上は食べるってのをルールにしてるらしい。今年もきっと減量の最中なのだろう。
…そして、ホワイトデーのお返しは何とクラス単位だ。上級生から下級生。…そして教職員からも貰っていることがついさっき判明した。
「…俺も何かお返しを考えるかなー。」
「でも小遣い少ないんだろ?」
「小遣いって言うな!給料だ!!」
…確かに、小遣いみたいな額かも知れんが。
「ま、良いんじゃないの?こう言うのは見返りを期待して贈るものじゃないからね。」
「でもお前のお返し、美味しいってめっちゃ人気らしいぞ。」
「…え?お返し目当てなの……?」
「ぁーー…さ、流石にそれは無いよな、うん…バレンタインだしな!」
「そうそう…王子様だからね僕は♪」
…フォローして損をしたような気になる。…まぁ良いか。
「ん…♪じゃあ行って来るよっ☆」
「あー、行って来ーい。」
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