第十二章 可愛いひと

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「えっ?! 授業さぼって?」 「その日を逃したら、多分しばらく会えない」 「……」  しばし沈黙してみつめあったあと、さくらが吹き出した。 「ほら。強引でしょ? もう自分のなかでは決めているうえに、私が否定できないように囲い込んでから言うんだもん。しかも敬語。ズルい」 「あー、それは……」  そうやって指摘されてしまうと立場がない。もう少し丁寧に説明しようと口を開くと、その瞬間すっと指がのびてきて、新太を唇を塞いだ。 「わかってます。私も同じ気持ちですから。……新太くんの部屋、行きます」  わざと敬語を使って微笑んだ。それもさくらの照れ隠し。地に足が着かないような嬉しさが湧いてきて、赤面してしまいそうで。そんな顔をみられるのは恥ずかしい。新太も照れ隠しに、唇にあてられていた細くて白い指をぱくっとくわえる。 「ひゃっ」  さくらが慌てて指を引き抜こうとするから、あえてより深く指を飲み込む。 「新太くん……」  困った顔をしたさくらの頬がどんどん赤くなるから、ついイタズラ心を煽られ、軽く噛むと、指を引き抜かれた。途方にくれたような表情のさくらに、新太は慌てて謝る。 「さくらさんの指、美味しそうだったからつい」  酷く困った顔をして睨んでくるさくらも、新太は可愛くて仕方ない。 「その言い訳……。もう、新太くん、本当に付き合うの初めてなの? なんだか妙に……慣れている?」  その言葉に思わず吹き出してしまう。 「それって初めてにしてはエロいってこと?」 さくらが困った表情のまま曖昧に頷く。 「……その表現、ちょっと納得いかないけど、だいたいそんな感じ」
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