第十二章 可愛いひと

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 真面目にそういうさくらが、やっぱりかわいいと思ってしまう。 「さくらさんがそう思ってくれたのなら、すげえうれしいかも」  さくらはうーんと唸ったあと、なんだか悔しいとボツリと呟いた。 「え?」  よく聞こえなくて新太が聞き返すと、いきなり首の後ろに手をまわされて、引き寄せられた。びっくりして固まっていると、チュッと音をたてて唇にキスされた。口に手を当ててぼおっとさくらを見つめてしまう。 「私ばっかりドキドキさせられて悔しいっていったの」  そういっていつもの大人っぽい笑みを浮かべ立ち上がり、新太の手をひっぱる。 「そろそろ、行こう? もうすぐ十時になっちゃう」  新太も慌てて立ち上がる。一歩先をあるくさくらをじっと見つめ、苦笑する。 (絶対俺のほうがドキドキさせられてるし)  すぐに隣に並んで肩をだき、こめかみにキスをした。 「あ、ここがうちなの。わざわざ送ってくれてありがとう」  公園から数分歩いてさくらが立ち止まって見上げたのは、新しい感じの綺麗なマンションの前だった。 「残念。もうついちゃったんだ」  心の底からそう思う。さくらと過ごす時間は、あまりにも早く流れていってしまう。けれどそろそろ彼女を解放しないと、家のひとに小言を言われてしまうかもしれない。 「さくらさん」  その柔らかな頬に手をあてる。さくらが目を細め、頬に当てられたその手に自分の手を重ねて頷く。ゆっくりと二人の唇が近づいていったその時だった。 「ねえちゃん?」 突然背後から声が聞こえ慌てて二人は離れた。
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