第十二章 可愛いひと

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 哲人は二人を見て、しまったという表情を浮かべ、でもいつも全然長続きしてなかったよね、なんて言ってさらに墓穴を掘り、沈黙が深まってしまう。 「あ、余計なこと言っちゃった」  哲人が困ったように呟く。 「普段はあんまりしゃべらないくせに、新太くんがいるとよくしゃべるね」  さくらがため息をつくと、だってARATAさんに会えてうれしいしと笑みを浮かべた。 「じゃあ俺、邪魔しちゃ悪いし行くから。母さんには適当にいっておくからごゆっくりー」 「哲ちゃん、何をいって……」  自ら爆弾を落としてしまった気まずさからか、哲人は新太にペコリと頭をさげてさっさとマンションのエントランスに入っていってしまった。しーんとした不自然な沈黙が数秒続いて、さくらが慌てたように口を開く。 「あ、新太くん、あのね、彼氏っていっても全然……」  そういいかけたさくらの口を新太は唇で塞いだ。小さな動揺を消そうとするような、熱を帯びたキス。ゆっくりと唇が離れると、さくらの顔はまた、暗がりでもわかるほど真っ赤になっていた。その表情に新太はどこかホッとして、笑みがこぼれてしまう。 「さくらさんに、元彼がいるのは当然だと思ってた」  さくらは大きく瞳を見開く。 「わかってはいても、やっぱり嫌だけど」  想像以上に嫉妬深い自分。度量が狭い男みたいで新太は情けなくなる。さくらはそんな新太をじっとみたあと、口を開いた。 「あのね。付き合っていたといっても、そんな深い付き合いじゃなかったの。……新太くんとは全然違う」  そっと視線を外し頬を染めてそういうさくらが愛おしすぎる。思わず手が伸びて、髪の毛をそっと撫でてしまう。 「俺も。そいつらより絶対俺のほうがさくらさんのこと、好きな自信あるから」  さくらは視線をあげて新太をみつめたあと、くしゃりと表情を崩して微笑んだ。
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