第十三章 予感

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 カーテンを締め切って光を遮断した薄暗い寝室。二人の荒い息遣いだけが部屋の空気を揺らしている。  朝八時すぎにさくらが来てくれた。ドアをあけて、その隙間からスーツを着たさくらがニコッと微笑んでくれたのが見えた瞬間、腕をひっぱって中に引き入れ抱き締めた。それからもう止まらない。激しいキスを交わしたまま、寝室になだれ込んでしまった。  (ノンストップで何回したんだっけ)  新太は弾んだ息のまま考える。心臓もおそろしく速いペースで鼓動し続けている。さくらを抱き締めたまま、新太は呼吸を整えるために、大きく息を吐いた。  さくらの呼吸も速い。抱き締めていると、その呼吸がシンクロしてくる気さえする。たまらなくなってさくらの髪の毛に顔をうずめ、唇で髪の毛をかき分けた。白い首筋に到達すると、何度もそこにキスを落とす。 「あ……」  小さな声。けれどそのなかに微量でも官能的な響きを感じてしまったら、もうダメだった。また、鎮まりかけた欲望が首をもたげてきてしまう。 まるで死を目前にした人が、自分の痕跡をこの世に残そうとするような、そんな勢い。  元彼がいた。年上でモテるだろうさくらに、彼氏がいなかったわけがない。頭ではそう理解していた。それでも体を重ねたら、慣れていない感じが新太を有頂天にさせていたし、元彼なんて気にも留めていなかった。  けれど改めてそんな存在がいたことを口にだされると、やっぱり嫉妬してしまうし、全力でさくらの中からその存在を消してやりたいと思ってしまう。 (ヤバイ……なんかもう、どこまでもできそう)
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