第十三章 予感

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「ダメ。もう準備しないと間にあわ……」  強引にキスして、その言葉を飲み込む。そうなったらまた止まらなくなる。再び始まりそうな勢いに、さくらが必死な様子で新太の胸に手をおいて突っ張り、動きをとめた。 「もう時間になっちゃう。支度しなきゃダメ!」  子供を叱るような口調でそう言われ、ようやく新太にストップがかかった。ため息をついて小さく笑う。  ほんの少し怒った顔をしたさくらを宥めるように前髪をかきあげ、名残惜しげに額に唇を落とす。その瞳がふるりと緩んだのを確認してから、新太はようやく体を起こした。    二人で身支度を調え十一時半に部屋からでた。新太は白いボタンダウンシャツにストライプ柄ネクタイを締め、紺のブレザーとグレーのパンツ姿。いつもはふわふわな髪の毛も、ワックスできちんとまとめられている。外は蒸し暑いけれど、スーツ姿の新太は爽やかで涼しげな印象だ。さくらは口元を緩めて呟いた。 「スーツを着てる新太くん、かっこいい」  新太ははにかんだように微笑んだ。 「今日はスポンサーのエライ人も打ち合わせにくるみたいで、Tシャツとジーンズじゃダメなんだ」  照れている新太も、すごく好きだとさくらは思ってしまう。 「二人でスーツを着て歩くってすごく新鮮だね」  繋がれている新太の手の優しい感じ。すっきり整った横顔。さきほどまで荒々しくさくらを求めて、怖いくらい貪欲な目をした新太とのギャップに、さくらの頬は自然と赤くなってしまう。
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