第十三章 予感

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「ちょっと就活生気分かも」  そう言って柔らかな笑顔を覗かせる新太の雰囲気は、就活生というより、スポーツ選手がスーツを着ている感じに近いとさくらは思う。  若いから、というだけではなく、会社のような枠組みに収まらないで、自分の道を極めようとしている人たちがもつ、独特の雰囲気なのかもしれない。自分とは違う世界にいる新太を感じて、さくらは胸の奥がしんとするのを感じてしまう。 (寂しいなんておかしいよね……)  すぐにそんな自分を否定して首を振った。  新太のほうが早い集合時間なので、スポンサー会社近くにある渋谷のカフェで軽いランチを取ることにした。小さなテーブルを挟んで向かい合い、アイスコーヒーを飲んで、サンドイッチを食べる。ふいに新太が訊ねてきた。 「そういえばさくらさん夏休みの予定、聞いてなかった。どうなっているんですか?」  さくらは頭のなかでざっとスケジュールを思い出す。 「七月の終わりに友達と海に行こうっていって話をしてて」 「う、海?! どこの海? まさか男とか、いないですよね?」  血相をかえた新太に、なんだか可笑しくなる。 「いないいない。女の子四人で。えーと、伊豆だったかな。一泊して温泉はいってのんびりしようって」 「女の子四人で海なんかにいたらナンパされるにきまってる……。しかもさくらさん、水着を着るんでしょ?」 「海だし。着るけど……」  勢いに気圧され、おずおずとそういうと新太はみるからに不満そうな顔をして呟いた。 「……他の予定は?」 「あとは友達と会ったり、短期でバイトしたり、それから八月のおわりに夏合宿?」 「合宿?! なんの合宿ですか?」  どんどん新太の声トーンが低く、怖くなっていく。
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