第二章 予告も前触れもなく

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 男が好きな訳でも、女の子にもてない訳でもない。  ふわふわっとしたやわらかい茶髪、くりっとした大きな目。背はそれ程高くはないけれど、顔が小さいから全体的なスタイルのバランスがいい。  ちょっと濃いその顔立ちに、好みはわかれるかもしれないけれど、新太は間違いなくイケメンの部類に入る。  けれど彼は、どんなにかわいい女の子に告白されても断わってきた。だから過去に女の子と付き合った経験はない。  彼女いない歴イコール年齢。  新太のその対応は、仲間うちで絶滅危惧種なみに珍しがられたけれど、彼自身はなんの問題もなかったし、正直、恋愛なんかしている時間が勿体ないと思っていた。 (それがいきなり、さくらさんに一目惚れ)    起こしてくれた時は寝ぼけていてよくわからなかった。ただただ、その声が心地いいと感じた。瞳に映った彼女を頭がゆっくりと認識していってようやく気付いた。  今どき珍しいさらさらの黒髪。奥二重の切れ長の瞳。柔らかな桃色の口紅に彩られたふっくらとした唇。陶磁器のように白い肌。  一気に目が醒めて、急に胸がどきどきしだした。初めて女性を美しいと、強くそう思った。授業中、その凛とした横顔を何度盗み見てしまっただろう。ずっと見つめていたい。痛いほどのこの感情はなんだろう。  初めての体験に混乱したまま授業が終わって。しっかり頭に焼き付けた彼女の名前をすぐ呼び掛けて、必死に話しかけていた。  積極的に女の子に話しかけようとするなんて、いままでの新太からしたら考えられない行動。けれどそうせずにはいられなかった。
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