第十四章 棘

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 八月も終わりに近づいた頃、さくらは予定通りゼミ合宿に参加していた。  千葉の九十九里浜にある旅館に、缶詰めになって小グループに別れてディスカッションを繰返す。それらをワードとエクセル、パワーポイントを総動員してレジュメを作成、合宿のメインイベント、グループ別プレゼンテーションへ向け準備をする。  最終日の夜、それぞれのグループがテーマに沿いつつ独自の視点を打ち出したプレゼンを披露し、内容を競う。ゼミの教授が優秀なグループを表彰し、そのあと打ち上げへとなだれ込んで大騒ぎするのが毎年恒例になっていた。  合宿中は初日からバタバタして、とにかく忙しい。夕食後、さくらは部屋に戻ってから、ようやくスマホをチェックすることができた。新太からメッセージが来ている。すぐにアプリを開いた。 『今日からゼミ合宿ですね』  コメントのあとに、不機嫌そうにしかめっ面をした、かえるのスタンプ。恨めし気なかえるの表情がどこか新太に重なる。思わず吹き出しそうになって口を押さえた。 『今ようやく部屋に戻ってきたところ。一日ひたすらPCとにらめっこしていたよ』  急いでメッセージを送ると、珍しくすぐに既読がついた。 『今、電話しても大丈夫?』  パッと画面が瞬いて降りてきたメッセージ。つい口元が緩んでしまう。夏休みになり会えなくなってから毎日、お互いメッセージを送りあって、タイミングがあえば新太から電話をかけてくれる。
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