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OKと手を輪っかにしたネコのスタンプを送信すると、すぐさまスマホが震えだした。逸る心を抑えて、部屋の端、窓の前に移動してから通話ボタンをおした。
「もしもし?」
『さくらさん?』
すこし低い、でもクリアな聞き心地によい声。間違いなく新太の声だ。知らないうちにさくらの唇はカーブを形作る。
「うんそう。新太くんの声、聞くの一週間ぶりかな」
うれしくてつい声が弾んでしまい、あわててボリュームを抑える。部屋には他のゼミ仲間がいる。
『そうですね。毎日メッセージはしているけど』
新太もそんなさくらに笑みを含んだ柔らかな声で答える。
『それよりさくらさん』
新太が咳払いをしたあと、一段声を低くした。
『合宿どうなんですか? 俺、すごく気になるんですけど』
さくらは我慢できずに吹き出してしまう。合宿の話になると、新太はいつもほんの少しだけ機嫌が悪くなる。笑い事じゃないんですからと電話の向こう側でぶつぶつ言っているのが聞こえる。
『新太くんが気にするようなこと、なんにもないよ。メッセージにも書いたけど、話し合いをしてレジュメ作って、ひたすらプレゼン準備。目が疲れてしょぼしょぼしているだけ」
『ふーん』
腑に落ちないような口ぶり。口を尖らせた新太の表情が目に浮かぶようで、やっぱりクスクス笑ってしまう。
「新太くんはまだ香港?」
『あー、そうです。明後日、一旦日本に戻る予定ですけど……』
「そのあとすぐにシンガポールだよね? 忙しいね」
『普段は時間がとれないから、夏休みはどうしてもゲーム一色になっちゃいますね』
そういって新太はすこし笑ったけれど、長期遠征のせいか、疲れが声に滲んでいる気がした。
「疲れた? 大丈夫?」
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