第二章 予告も前触れもなく

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 振り返ったさくらと目があった瞬間、直接その手で心臓を掴まれてしまったように、高鳴っていくのを止められなくなってしまった。  新太に向かって伸ばされた、白くて細い指先。まるでスローモーションを見ているように、ぼんやりと見つめてしまった。  彼女が新太の髪の毛に触れた瞬間、びりりと電気が一気に背中をかけ抜ける感覚を覚えた。髪の毛に感覚なんてないはずなのに、確かに感じた。目を離せない。さくらの瞳は新太を映したままゆっくり細められた。思わずゴクリと喉が鳴る。  痛いのにどこか甘い衝撃が波紋のように身体全体にひろがっていく。それが指先が届くやいなや、どうしようもないほど疼いて、手のひらをぎゅっと握りしめた。  こんな圧倒的な引力をもって女性に惹きつけれたことなど一度もなかった。  予告も前触れもなく、新太は否応なしに恋におちてしまっていた。
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