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そう尋ねると、一瞬の間があいたあと、うん大丈夫、と新太が笑う。
「海外にいるだけでも気を遣うのに、大会にでて何度も対戦するんだから、気が休まらないよね。休める時はゆっくり休んでリラックスしてね」
どんなふうに言ったらいいのかわからない。けれど新太が少しでもいい状態で大会に挑めるように、祈らずにはいられない。すると電話の向こうでふっと笑う気配がした。
『さくらさんが側にいないなら、海外でも日本でも一緒。さくらさんがいないと、俺、リラックスできないから』
さらりとそんなことをいうから、スイッチが入ったようにさくらの頬が熱くなってしまう。
『話すだけじゃ、やっぱり足りない。早く会いたい』
掠れた声でそう呟く新太を、ぎゅっと抱き締めてあげたいと切実に思う。
「うん。わたしも会いたい」
自然にこぼれてしまった呟き。電話の向こうの人も、さくらの呟きにある切実さを間違いなく掬いとって、うん、と柔らかな声で返してくれる。
そのあと数秒間、言葉が途切れる。話さなくても、ふたりの気持ちは繋がっているのをさくらは感じていた。
ふいにドアが開く音と人の声が、新太の携帯から響いてくる。誰かと会話する新太の声。ガヤガヤした空気が伝わってきた。
『俺、もう行かないと』
電話口に戻ってきた新太がため息まじりでいう。
「うん、わかった。頑張ってね。でも無理はしないで」
『ありがとう。さくらさんの声を聞いたから、もう少し頑張れる』
明るくそう言って笑った新太に少しほっとした。
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