第十四章 棘

5/16
前へ
/253ページ
次へ
『また連絡する』 「わたしもするね。それじゃ、ね」  電話を切るとき、新太はいつもさくらが電話を切るまで待ってくれている。気にしなくていいからといっても必ずそうする。  最初に電話をしたときはまたね、がエンドレスになってしまい、二人で笑いながら一緒に切ろうといって同時に切った。それだって新太はもしかしたら切っていなかったかもしれない。それ以来電話はさくらが先に切るようになっていた。 『またね』  穏やかにそういってくれる新太の声を聞いたあと、通話を切って、彼の声を反芻するように目を閉じた。 「さくら、電話終わった?」  はっとしてふりかえると、朋美がお風呂にはいる準備を整えビニールバックを手にして立っていた。 「朋ちゃん、待っていてくれたの? ゴメンね。今、用意する」 「あーいいの。慌てないで。お風呂場、ちょっと狭いし、ユウカとサチに先に行ってもらったから。時間差にしたほうがいいかと思って」 「ありがとう」  そうはいっても、さくらはできるだけ手早く準備する。朋美はそんなさくらをじっと見つめていたけれど、ふいに尋ねてきた。 「さっきの電話、彼氏でしょ?」 「え?」  朋美が何でもないことのようにさらりという。さくらはなんといっていいか迷う。ゼミ仲間には誰にも新太と付き合っていることを言ってなかった。そんなさくらを見て、朋美が笑った。 「アラタくん、だっけ? 見た目はジャニーズみたいにカワイイのに、中身はクールで気が強い年下イケメン」 「えっ……。朋ちゃんなんで知ってるの……」
/253ページ

最初のコメントを投稿しよう!

250人が本棚に入れています
本棚に追加