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今度こそ驚いてピクリとも動かなくなったさくらをみて、朋美はいたずらっぽい笑みを浮かべている。
「だってさくらの彼氏、三井のこと牽制しにきたんだもん。さくらに手を出すなって。その現場に、私もいたの」
「えっ!」
さくらは思わず後ろに仰け反った。収まっていたはずの顔の火照りが一気にぶり返してしまう。
「さくら、愛されてるねえ」
朋美がからかうように笑うから、余計恥ずかしくなってしまう。新太がやたらにゼミ合宿を気にしていた理由がようやくわかった。
「ま、まさか新太くんが、そんなことをしていたなんて……。三井くんだって、困ったよね……」
恥ずかしさに、しどろもどろになってしまう。それでいて、新太の一途な気持ちも伝わって胸がいっぱいになってしまい、なんて言っていいのかわからない。
「三井は平然としていたよ。というか、平然と振る舞おうとしていたというか……」
朋美がその時のことを思い出すように目を細めた。
「あの時の二人の間の張り詰めた空気、こっちまで息がつまりそうになったよ」
新太が本気で何かに対峙したら、恐ろしくクールで冷徹になることをさくらは知っている。ゲームをする時とたぶん、一緒だ。司の気分を害してしまったことは容易に想像できてしまう。
「とにかく三井くんに謝らないと駄目だよね……」
さくらがこまったように小さな声でそういうと、朋美がうーんと唸った。
「さくらに謝られるのも辛いかも」
「え……?」
思わず朋美をみた。いつもの飄々とした朋美とは違う、真面目に何かを語ろうとする人の雰囲気を漂わせていて、さくらは思わず瞳を見開いた。
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