第十四章 棘

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 司は合宿で一ヶ月ぶりにさくらに会って驚いた。雰囲気がかなり変わっていたから。変わったというより、何かが重ね塗りされような感じ、といったほうが近いかもしれない。  以前は凛とした感じが強くて、近づきがたい美人という印象だった。それがどこか角がとれて、たおやかで優しい空気を纏っている。  その空気は柔らかで仄かに色気さえ漂う。今まであまりみせたことがなかった屈託のない笑顔。どうかすると恥ずかしそうに白い頬を染め、はにかんだ表情を浮かべる。時々垣間見せる、どこか遠い場所をぼんやりみつめる黒い瞳。  そんなさくらの変化は、ゼミの男たちもすぐに気がついて噂するほどだ。
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