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「三井くん、ビールをグラスに注ぐのうまいね」
「俺、居酒屋でも短期でバイトしたことあるから」
「どうりで……」
さくらがふわっと微笑んだ。司も彼女の笑みに惹きつけられるように、微笑んでしまう。さくらのコップに自分のものをかちりと合わせた。ビールが揺れる様をみつめる。
「乾杯。お疲れさま」
「お疲れさま」
ビールを飲むと、二人の間に小さな沈黙がおちた。周りはやたらうるさいのに、この場だけ不自然な静けさがぽっかりと漂う。
「あ、あの三井くんのチーム、優勝おめでとう。やっぱりプレゼンの組み立てとか、見せ方、説明や、質問に対する受け答えもさすがって感じだった」
さくらがそれを埋めるように、いきなり話し出した。その唐突な感じに吹き出しそうになって、実際すこし笑ってしまった。そんなさくらの不器用な感じもやっぱり好きだと思ってしまう。
「え……何? 私、何かヘンなこといった?」
さくらが困ったように司の顔を覗きこんだから、ゆっくり首を振った。
「あ、いや、ごめん。ありがとう。でもさ、さくらが俺に話したいことって別にあるんじゃない?」
司の言葉にさくらは唇をきゅっと噛み締めた。それからひとつ息を吐いてまっすぐ司を見つめた。
「あ、あの三井くん」
「うん」
司もさくらをしっかりと見つめ返す。彼女の瞳が微かに揺れた。
「新太くんが三井くんに何か、言いにいったみたいで。その……」
司はひとつ息を吐いて、気持ちを整える。
「ああ、朋美から聞いたんだ。あいつがさくらに手を出すなって俺を牽制しに来たことね。あいつと付き合いだしたんだって?」
やっぱり胸の奥が疼く。けれど軽く笑みまで浮かべ、さらりと受け答えすることができて、司は内心ホッとする。
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