第十四章 棘

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 さくらは一瞬瞳を見開いたあと、心持ち頬を染め、恥ずかしそうに視線を落とした。恥じらうさくらを見て、司の表情が歪む。視線を外してくれてよかったと、苦く思う。 「うん、そうなの。でも新太くんが三井くんにそんなことを言いに行ってたなんて知らなくて。三井くん、急にそんなこと言われても、びっくりしちゃうよね……」 「まあ、びっくりしたというより、あいつらしいとは思った」  その言葉にさくらは、視線をあげて安心したようにこりと小さく微笑んだ。その穏やかな笑みに胸の疼きがほんのすこし宥められる。司はそっと吐息をついた。   ずっと後悔していた。さくらにその気がないからといって、ただ側にいることで、満足していたことを。結果、あっという間に新太にさくらをさらわれてしまったのだから。  散々悩み、合宿中気持ちだけでも伝えようと決心したものの、さくらの変化を見せつけられて。告白しても気まずさが残るだけで、なにも生み出さないことをハッキリと思い知らされた。 (それならば。もう後悔しないために、今だからやれることをやる) 「ご丁寧に俺を牽制してくるなんて。ARATAの勝負強さの秘密がわかった気がしたよ。ここぞっていうときは徹底的にやる。手を抜かないよな、やっぱり」 「三井くん……」  さくらはビールが暖まってしまうのではないかと思うくらい、両手でグラスを握りしめている。彼女の様子を見ながら、司は慎重にカードを切りはじめた。
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