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さくらがまっすぐ司をみて、そう言い切った。司の気持ちを知っているからこそ、諦めさせるためにあえてそう言ったのかもしれない。
その言葉に、いまさら衝撃は受けなかった。衝撃を受けなかった、といったら嘘になるのかもしれない。さくらからそういう類いの事を言われる覚悟はしていたし、それ以前に彼女の変化をここ数日、目の当たりにして感覚が麻痺してしまったのかもしれない。
あとから思い出したらきっと、胸がつぶれるような強い痛みを感じるはずだ。司は苦い気持ちをおし潰すように微笑を浮かべる。自分の刺した棘なんて、ごくごくちっぽけなものだということはよくわかっている。
新太は心底さくらに惚れているし、さくらもそうなのだから。相思相愛。今は誰にも邪魔出来ない。けれど、と司は頭の片隅で冷静に考える。新太の調子がすぐにあがるとは考えにくい。そしてさくらはその原因を自分のせいだとおもうだろう。
新太を心から想えば想うほど、司が放った棘はゆっくりとさくらの奥深くに進んでいく。そして彼女の心を突き刺す時がくるはずだ。時限爆弾みたいに。
準備をして、機が熟すのを待つ。それは司のいつものやり方だった。けれどこれまでやってきたどんな準備よりも、気が重く、胸が痛む。それでも、と司は思ってしまう。
このためにさくらが苦しむなら、自分の苦しみとしてまるごと受け入れる。新太のことがずっと好きだというなら、それでも構わない。とにかく自分の傍にいてほしい。
勿論、予想どおりになるとは限らないことを、司もわかっている。どうなるかは誰にもわからない。待つしかない。
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