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そんなメッセージとかわいいスタンプが並んでいる。力が抜け自然に笑みがこぼれた。さくらがそれらのメッセージを実際に口にしているところを想像する。
黒目勝ちの瞳はうっすら膜を張ったように潤んで、口元は柔らかなカーブを描いている。抱きしめたら、きっとまた百合のような爽やかな香りがする。白い首筋に唇をおし当てると、さくらはそっと新太の肩に顔をのせるから、黒くてまっすぐな髪の毛に指を通して手櫛する。そうするとさくらが小さく吐息をもらして……。
さくらの声がたまらなく聞きたくなる。けれど同時に、それを一瞬躊躇する自分もいて、新太ははっとする。
アジアの大会で惨敗し、プロになってから初めて大きな挫折感を味わった。ゲームに集中していないわけじゃなかった。トレーニングもいつもどおりにやっているはず。それなのになにかがズレている。そう感じてもいた。いままでと違うことといったら、さくらという存在が心の中心にいること。
(さくらさんのせいじゃない。俺の問題なんだ。関係ない!)
そこまで考えてから、大きくため息をついた。今は余計ことは考えたくなかった。たちあがってくるのはシンプルな気持ち。とにかくさくらの声が聞きたい。早く会いたい。それだけだ。
電話しようとスマホを通話画面に切り替えたものの、時間をみたらまだ朝の五時前。こんな時間に電話をしたら迷惑もいいところだ。新太は苦笑して、もう一度メッセージアプリを開いた。
『さくらさん、ただいま。昨日の夜、帰ってきたんだけど、疲れて寝落ちしてた。連絡できなくてごめん』
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