第十五章 溢れ落ちるもの

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 とりあえずそれだけ打ち込んで送信する。さくらの送信したスタンプの下に、新太のメッセージがぱっと光って映りこむ。その瞬間、すぐに既読がついて、新太は思わず二度見した。手元のスマホがブルブルと震えだす。慌てて通話ボタンをおした。 「もしもし」  ドキドキして声が掠れてしまった。さくらの声を聞くのは久し振りで、ちょっとした高揚感が新太を包む。 『新太くん、おかえりなさい。メッセージ貰って嬉しくて電話しちゃった』  早朝だというのに、さくらの声に寝起きの雰囲気はなく、むしろいつもよりテンションが高い。彼女の声を聞いてたら、体全体を覆っていた、嫌な強ばりもほどけてしまう。 「ただいま。……っていうかさくらさん、起きるの早くないですか? 俺は早く寝ちゃったから起きたけど、今五時前ですよ?」  からかうようにそういうと、さくらは一瞬黙って、ぽそっと呟いた。 『だって、新太くんからいつ連絡があるんだろうって思ったら、昨日から落ち着かなくて。うとうとはしたんだけど、さっき目が覚めたから起きちゃった』  年上で普段はクールにみえるさくらが、新太だけに垣間みせる可愛らしさ。たまらなくなってしまう。気持ちが勝手に溢れてくる。止まらない。 「会いたい」  考える前に、口にでてしまっていた。しかもひどく真剣な口調。自分で言っておいて、なんだか恥ずかしくなってしまう。  電話口の向こうで、吐息のような音が微かに響いたあと、うん私も、と小さいけれど迷いのない声が新太の鼓膜を震わせる。  照れくささは消え、愛おしさだけが残る。新太は自分でも気がつかないうちに、口元がほころんでいた。
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