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「今日、会える?」
電話の向こうでも微かに笑う気配がした。
『今ね、出掛ける準備を始めていたの』
「え?」
『朝ごはん、何も用意していないでしょ? 何か持っていくからちょっと待っていてね。うーん、多分七時前にはそっちにつけると思う』
新太は我慢できなくなって吹き出した。
「さくらさん、行動早い。スゲー」
『でしょ』
ふたりでクスクス笑いあう。
「慌てないで。気をつけて来てください」
『うん、大丈夫だよ。じゃあ後でね』
「待ってる」
さくらが電話の向こうで微笑んだ気がした。電話が切れたのを確認して新太も通話を切る。
早く腕のなかにさくらを抱き締めたい。もうすぐ会える恋人を想って、新太ほ柔らかな吐息をつく。今、ようやくまともに呼吸ができた気がした。酸素がきちんと肺に取り込まれて体をめぐりだした感覚。
大会中は息苦しさを感じたから、呼吸が浅くなっていたのかもしれない。さくらと堂々とつきあっていくためにも、どうしても神谷に勝ちたかった。去年よりいい成績をのこしたかった。そんな気持ちが焦りに繋がっていたのかもしれない。
結果は神谷にたどり着くまえに惨敗。一方神谷はただ淡々と目の前にある勝負に集中し、自身のプレイを楽しんでいるようにみえた。時折笑みすら浮かべて。
(全然だめだ、俺)
ベッドにすわったまま、天井の一点をじっとみつめ、唇を噛み締めた。これからどうすべきか。少しクリアになった頭で考える。
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