第十五章 溢れ落ちるもの

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 早く会いたい。その気持ちがさくらを急かす。通勤通学の人の流れに、早足で逆走する。チラっと見る人がいても気にもとめず、まっすぐ前だけを見て新太のマンションを目指す。  ようやくエントランスをくぐってエレベーターに乗る。ドアがしまり、ゆっくり上昇する動きすら、もどかしい。新太の部屋があるフロアにつくと、エレベーターを飛び出し、廊下を一直線に進んだ。ドアの前について、呼吸をひとつ整えてからチャイムを押す。  数秒後、かちゃりとカギがまわる音がしてドアがあいて、隙間から新太が顔を覗かせた。目があった瞬間、胸がいっぱいになってしまう。言いたいことはたくさんあるはずなのに、言葉がでてこない。 「新太くん、久し振り……」  ようやくでてきた言葉がこれだった。新太が目尻を緩め、くしゃりと表情を崩して微笑んだ。すっと手が伸びてきて、腕をつかまれ、玄関の中に引きこまれる。後ろでドアがしまる前に、すっぽりと体を包まれるように抱き締められていた。
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