第十五章 溢れ落ちるもの

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 新太が少しでも穏やかに、元気になれるように。雛に餌を与える親鳥みたいに、祈りをこめたその気持ちを口移しするようにキスをする。瞳を見開いた新太の表情が次第に、柔らかなものになっていく。  大きな手が何かを確かめるようにゆっくりと、さくらの腰から背中をあがってくる。触れられた場所から、体温がじわじわあがってくるのを感じた。  キスに応えるように、さくらの唇を舌先でゆっくりとなぞる。さくらは小さくため息をついて、唇を思わず離してしまう。ほぼ触れあいそうな至近距離で見つめあう。  新太はまっすぐさくらだけを見つめ、彼女を欲している。さくらも狂おしいほど新太が欲しかった。磁力が引き合うようにまた唇が触れあう。パンのはいった袋が手からすべり落ちてしまったことすら、気がつかなかった。  次第に貪りあうようなキスになっていく。そのままベッドに倒れ込み、ふたりはまるで野性動物みたいに何度も体を重ねあわせた。  さくらはどこまでが自分で、どこからが新太なのか、わからなくなっていく。身体が溶けて、流れ出していきそうな、自分自身を制御できない快感。その波に何度もさらわれて、おかしくなりそうだった。  そうやって体を繋げていると、ここ最近さくらの中に巣食っていた不安は、後退していく。感情のままに触れて触れられて、お互いをダイレクトに感じられることがただただ嬉しかった。  そうして何度も新太をもとめているうちに、いつの間にか意識が途切れていた。
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