第十五章 溢れ落ちるもの

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 さくらがふと目を覚ますと、ベッドに新太はいなかった。部屋はカーテンをしめ切っているから、まるで夕方みたいな気配が漂っている。慌てて近くの時計をみると、午前十一時すぎていた。 (もうすぐお昼!)  睡眠不足がたたって、つい寝てしまったみたいだった。あわてて起き上がり床に散らばった洋服や下着を集めて着る。急いで隣の部屋にいく。  大きなディスプレイモニターに囲まれたいつもの椅子に座り、ヘッドフォンをして新太はトレーニングをしていた。ホッとした。  机の上をみると、何かを食べた形跡はなく、ミネラルウォーターのペットボトルだけがぽつんとのっているだけ。昨晩からなにも食べていない様子だった。   あわてて玄関に走ってパンの紙袋をとってくる。グレープフルーツを切ってはちみつをかけ、お湯を沸かし、持ってきたドリップバッグで熱いコーヒーを淹れた。  新太に早く食べさせなくてはいけない。かなり集中している様子だったけれど、さくらは思い切ってヘッドフォンを後ろからさっと取った。  振り返った新太と目が合う。ゲームをしている時の、人並み外れた集中力を知っているから、ある程度予想はしていた。  けれどいきなりプレイを遮られたことへの苛立ちを隠さない、触ると切れそうなほど冷たい瞳を新太から向けられ、やっぱり体がすくんでしまった。それでもさくらはそれになんとか耐え、強い瞳で見返す。 「新太くん、トレーニングの邪魔をしてごめんなさい。遅くなったけど、ごはんを用意したから。何か体にいれないとよくないよ。食べよう」
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