250人が本棚に入れています
本棚に追加
そんな凛とした気質のさくらだからこそ、司は恋をした。けれどそう思う半面、自分を決して頼ろうとしない彼女に心が軋む。ひとつため息をついた後、少し冷静になって、違うやり方でアプローチを試みる。
「確かあさってだったよな、ARATAもあのイベントにでるんだろ? 有名ゲーマーが集まって勝ち抜き戦をやるやつ」
さくらがはっとして顔をあげた。彼女が強く反応したことに手応えを感じて話を続ける。
「賞金はでないけど、ライブ動画が配信されるし、SNSでも結構話題になってるよ。さくらはいかないの?」
口を開きかけたまま、小さな唇を震わせて俯く。そんな様子を司は注意深くみつめる。
「昔からある有名な老舗のゲーセンでやるんだよな。参加するゲーマーはそこでみんな切磋琢磨した奴らばかりなんだよ。今回でる予定の神谷やARATA、ほかの有名ゲーマーたちもね。きっとすげえギャラリーがあつまるよ。あそこのゲーセン、古いうえに狭いから、沢山人が入ったらぎゅうぎゅう詰めだろうな」
「私は……いかない」
その殻に閉じこもった言い方は、さくららしくなかった。隣の席に座ると、普段よりも白くみえる、俯いた横顔をじっとみつめた。
「あいつがプレイしているとこ、見たくないの?」
さくらはゆっくりと司のほうに顔を向けた。その瞳は悲しげな何かを含んで、重く潤んでいるのに、口元は無理矢理微笑もうとしている。
「私が見てもわからないから。邪魔したくないし」
みている司まで、苦しくなるような笑み。思わず手を伸ばして抱きしめてしまいたくなるのを堪える。
最初のコメントを投稿しよう!